しかし、「石炭は社会の歴史的現実を照らし出す」と著者が書くように、歴史を追って紹介される文学作品の多くは、「坑夫という最底辺」の暮らしや、戦争と収奪の構造の核心をえぐるものが多い。
恥ずかしながら、読んでいない作品、知らなかった作家もいた。本書を読み終えたあと、ぜひ読んでみたい、いや読まなくてはならないと、つき動かされた。
引用されたどの作品の言葉も、私にはまるで、地の底からの、まっすぐないのちの叫びに聞こえたからだ。
過去の人びとが石炭に託した思い
とはいえ、本書を貫く火のイメージは、「叛逆の火」や「一億火の玉」、「炭塵爆発」といった負のイメージばかりではない。暗闇の火を告発しながらも、その底流には、「坑夫」に象徴される人間の強さがある。著者のあたたかいまなざしがある。
<坑夫は、自然の資源を地上の人間社会に送り出すのみで、それを私有することはない。だからこそ、かれは終生貧しいが内面的には豊かなのだ。それとは逆に、坑夫が地上に送り出した鉱物資源を私有財産に変える人間たちは、だれかひとりの占有物ではなく万人のものでありたいという自然の望みに、敵対しているのである。>
私自身、記者になって初めての大事故取材が、北海道南大夕張の炭鉱事故だった。目に焼きついた一瞬の映像の、当時は見えなかった遠い過去を、本書に見せていただいた。小説や歌詞という表現でなければ見ることのできない映像があり、私たちは「文学史」という方法でそれをかいま見ることができる、と知った。
表紙カバーに「エネルギー転換期のこの時代に」とある。過去の人びとが石炭に託した思いを、いまだからこそ一語一語しっかりと受けとめたい。
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