中国の新華通信社が習氏のこの軍視察を大きく取り上げて報道したのは12月12日のことだったが、その翌日の12月13日、日中間で未曾有の緊急事態が生じた。尖閣諸島の魚釣島付近で中国国家海洋局所属のプロペラ機1機が領空侵犯したのである。中国機による日本の領空侵犯は自衛隊が統計を取り始めた1958年以来初めてである。
習政権が樹立してからひと月余、尖閣諸島やその付近の海域で日本側はいかなる単独行動も取っていないにもかかわらず、中国側は一方的な挑発行為を執拗に繰り返してきた。その中で習政権はとうとう、日本領空への初めての侵犯に踏み切った。
よりいっそう強硬姿勢を強めるであろう習政権
上述に取り上げた一連の動きを連結的に捉えてみると、習近平政権の政策理念とその目指す方向性は火を見るより明らかであろう。
要するに習政権は今後、かつてはアジアに君臨した中華帝国の復権を意味する「民族の復興」という旗印を掲げて、それを達成するための手段として「強国強兵」を進めていこうとしているのだ。中国におけるウルトラ・ナショナリズムの色彩の強い「超タカ派政権」の誕生である。
もちろん、このような覇権主義的政治路線の推進とセットで、習政権は今後、よりいっそうの対外的強硬姿勢を強めていくのと同時に、いわゆる「尖閣問題」で争っている日本に対しては正真正銘の敵視政策に傾いていくだろう。
こうして見ると、習氏による軍の初視察が大きく報じられたその翌日に中国機が日本の領空侵犯に踏み切ったことは、決してどこかの部門の「単独行動」や「暴走」の類のものではなく、むしろ習近平指導部の指揮下で行われた意図的な対日行為であり、その背景にあるのはまさに、タカ派の習政権の掲げた帝国主義的政治路線と日本敵視政策そのものなのである。
このような流れの中で起きたのがすなわち、今年1月10日の、多数の中国軍機による日本の防空識別圏侵入の衝撃的事件である。その日の昼ごろ、沖縄・尖閣諸島北方の東シナ海で、中国軍の戦闘機数機は日本の領空の外側に設けられた防空識別圏に侵入してきた。あからさまな軍事的威嚇行為である。前回の領空侵犯は普通の非軍用機だったが、今回は中国空軍の出動となった。日本に対する習近平政権の敵視姿勢と軍事的圧力がよりいっそうエスカレートしている。