「平和と繁栄によって逆説的にもたらされた環境及び人口の危機に対応する目的で生まれた」江戸時代の森林政策を、「トップダウン方式」の「科学的な森林管理」と、著者は高く評価する。
先人の知恵と労苦を忘れてはならない
全体を通してみると、著者が実際に長期滞在したり、暮らしたりしている米国のモンタナ州やオーストラリアの現状認識に比べ、日本に対するそれは表面的で、公平さを欠くきらいもある。
とはいえ、江戸時代にいったん森林資源が損なわれ、危機的な状況に陥りながらも、徳川幕府が速やかに解決策を打ち出した結果、「次の二世紀のあいだに少しずつ、安定した人口と、これまでよりずっと持続性のある資源消費率を達成してみせた」という指摘には、日本人として、素直に目を見開かせられた。
先人の知恵と労苦のおかげで、かろうじて崩壊をまぬがれたという歴史を忘れ、過去の遺産を安穏と費やしてはいないだろうか。ここでわれわれが間違いをおかせば、容易に崩壊への坂を転げ落ちていくのではあるまいか。
間違いへの固執
環境を損ない、やがては破滅につながるとわかっているのに、なぜ社会は問題解決に失敗するのか。
複数の要因を著者は提示するが、なかでも、「価値観の衝突」という考え方に私は共感した。
「わたしたちは、深く根づいた執着のある価値観に基づいて、現状を好意的に解釈し、悪い面を無視してしまうことがある」というのだ。
「間違いへの固執」「石頭」「否定的徴候から結論を出すことへの拒絶」「思考停止もしくは停滞」、あるいは「埋没費用の効果」ともいえる。損をした株を売りにくいのと同じく、わたしたちは、すでに多額の投資をした政策を捨て去ることに抵抗を感じる。