前作『銃・病原菌・鉄』でピュリッツアー賞を受賞した米国の生物学者ジャレド・ダイアモンドによる文明論が、文庫になった。
「滅亡と存続の命運を分けるもの」と副題にあるように、過去に“滅亡”の道をたどった社会と、現在も存続している社会の命運を分けたものは何だったのかを、おもに環境問題の視点から探る。
前作同様、上下2巻の大作だけあって、提示されている事例、考察の視点ともに広範多岐にわたる。
環境問題解決における二つの対照的な方式
『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』(上・下) (ジャレド ダイアモンド 著、Jared Diamond 原著、楡井 浩一 翻訳)
上巻で読者が目にするのは、おもに過去の世界史において、社会や文明が崩壊した失敗例である。
イースター島、ヘンダーソン島、アナサジ族、古典期低地マヤ、ノルウェー領グリーンランド。いずれも、「みずから引き起こした、もしくは運悪く巻き込まれた環境問題の解決に失敗し、結果として崩壊に至った過程」が述べられる。
一方、同じように困難な環境下でも数千年にわたって存続している社会がある。
下巻では、崩壊を回避した社会の成功要因を分析する。こうした社会では、環境問題の解決にあたり、二つの対照的な方式をとった、と著者はみる。
ボトムアップ(下から上へ)方式とトップダウン(上から下へ)方式で、前者は比較的小さい島や土地を占有する小規模な社会で採用でき、後者は中央集権的な政治体制を採る大きな社会に適している。(いうまでもなく、現代の民主主義国では、地域住民や市民団体による“下から上へ”の管理と、さまざまなレベルの行政機関による“上から下へ”の管理が共存する。)
前者の方式が功を奏した事例として、ニューギニア高地とティコピア島が、そして後者の成功例として江戸時代の日本が紹介されている。