2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2013年3月11日

復興阻んだ復興のための制度

 だが旅館を再建するためには大きな障壁があった。津波の被害地域は、将来再度の津波被害を防ぐため、今後数年をかけて5メートルのかさ上げが計画され建築は制限されていた。

 建物を建てることができない─。建築制限という、そもそも復興のための措置が逆に復興を妨げる、というジレンマに女川町は陥っていた。

「エルファロ」の中心にある広場「パルケ」で打ち合わせをする佐々木さんと女川町復興連絡協議会のメンバー

 昨年10月中旬に転機がやってきた。4旅館主の相談役となっていた女川町商工会職員の青山貴博さんのもとに小松洋介さん(現女川町復興連絡協議会戦略室、30歳)があるアイデアをもって訪れた。「移動可能なトレーラーハウスなら建築制限の対象にならない。旅館業を復活できるかもしれません」。

 小松さんは仙台市出身。リクルートで法人営業に携わっていたが、震災後の2011年9月に退社し地元宮城県の復興支援に身を投じた。小松さんや青山さん、鈴木さんに、佐々木さんら4旅館の経営者が加わり手探りのプロジェクトがスタートした。

 快適な宿泊村を作るためには気密性が高く耐用年数の長いトレーラーハウスが必要で、1台約900万円はかかる。最終的に40台、64室で最大140人が宿泊可能な施設に整備するには、人件費も含めて4億円以上の事業費が必要だ。明治時代からある女川で最も古かった「星光館」の星明さんは78歳。35年間捕鯨船に乗って世界各地を回った「にこにこ荘」の遠藤健一さんは69歳。2人とも仮設住宅に住む。再建には国と県が再建費用を補助する「グループ補助金」の交付が必要だった。

 12年春ごろから国との折衝を開始したが、第2の壁が立ちはだかった。グループ補助金は「原状復帰」が建前だ。つまり食堂を再建するためには食堂を、旅館を再建するためには旅館を建てることが原則になっている。「トレーラーハウスは不動産ではなく動産だから認められない」「補助金を出しても、移動可能なら町外に持ち運んだり転売されるおそれがある」。建築制限で建物は建てられない。だが建物でなければ補助金は下りない─。復興のための規制と復興のための補助条件がまさに自家撞着を引き起こしていた。

 小松さんや青山さんは経済産業省の担当課長に直談判し、「地域の復興のために旅館を再建しようとする人たちがトレーラーハウスを持ち出したり転売するわけがないでしょう」と訴えた。


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