2022年7月2日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年5月24日

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 米国の政治学者でコンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマーが、ウクライナ紛争を巡る新冷戦が、今後ロシアと西側諸国の間の直接衝突に発展しかねないリスクについて、5月5日付の米フォーリン・アフェアーズ誌で論じている。

Waldemarus / iStock / Getty Images Plus

 ブレマーの論説は、まずウクライナを巡る対立が単にウクライナの主権と領土保全の問題から、ロシア対西側諸国の対立という「新冷戦」の状況に入ったことを認識する必要を強調する。そして、20世紀後半の冷戦に比較して、ロシアの軍事的脅威や経済力は低下しているが、他方、新冷戦においては、米国内の分裂や民主主義対独裁主義の対立による多国間協力崩壊の危機、大規模サイバー攻撃といった脅威があり、より不安定で予見困難だとしている。このような状況下、核軍備管理協定や信頼醸成等の安全装置の構築については、目途が立っておらず、戦争が長引けばそれだけ冷戦が直接衝突に発展する危険があると警告する。

 今後の展開として、ブレマーは、プーチンがウクライナ東部の一地域を掌握して勝利宣言を行い停戦となる場合は、停戦となっても制裁は継続するので、反発したプーチンは北大西洋条約機構(NATO)を挑発する恐れがあり、西側がこれに対応することによる紛争拡大の可能性を指摘する。また、ロシアがウクライナ東部で敗北する場合は、更に紛争拡大の危険が高まり、追い詰められたプーチンが化学兵器を用いたり、ポーランドのNATO基地を攻撃したりし、これに対しNATO 側がウクライナ領内のロシア軍攻撃や飛行禁止空域設定で応じ全面的な衝突に発展する可能性や、相互の破壊的なサイバー攻撃、更には、可能性は低いがロシアによる核兵器の使用といった可能性を警告している。

 ブレマーの論説は、現状認識や今後のさまざまな紛争拡大の可能性について把握する上で有益であろう。ブレマー指摘の通り、ウクライナ国内での交戦状態が続いている状況において既にロシアと西側の間では冷戦状態となっており、仮にウクライナで停戦が成立しても、ロシア軍がウクライナから撤退するまで制裁は続き、戦争犯罪問題も問われることから、相当長期にわたり新冷戦が続くことは確実であろう。

 20世紀の冷戦に比べてロシアの国力が低下して国際的孤立しているとしても、ブレマー指摘の通り、米国の国内的対立、国際協調の崩壊、破壊的なサイバー攻撃など、国際社会に与えるリスクは増大している。ブレマーは、新冷戦において中国は積極的なロシア支援を行わないであろうとの見方であるが、中国がどう出るかは1つの不安定要素であり、新興経済諸国が中立の立場をとることから、ロシアが国際社会でどこまで孤立すると云えるかは疑問がある。

 いずれにしても、新冷戦が長期化し、他方でウクライナでの交戦が続けば、冷戦が直接衝突に拡大してしまうリスクは常にあり増大する。例えば、プーチンはNATOによるウクライナへの武器援助を戦争行為とみなしているので、いつでもNATO側への報復はあり得るし、マリウポリ製鉄所攻撃に非人道的手段を用いればすぐにでも紛争がエスカレートする危険があり、国際社会はそのような緊張状態にさらされ続けることになる。

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