2024年11月23日(土)

ワシントン駐在 政治部記者が見つめる“オバマの変革”

2009年3月6日

 自家用ジェットは、フライト1時間あたり約2万~5万ドル(約184万~460万円)もかかるとされ、ぜいたくの代名詞のような存在だ。昨年末も、経営危機で米政府の資金繰り支援を求める米3大自動車メーカーの首脳らがワシントン入りする際に使い、議会内外で大ブーイングが起きた。オバマ・スタッフの助言は正鵠を得ていた。

 だが、オバマ氏は同じ著書で「偽るのはやめよう。最初に商用機で4か所を2日間で回ることになった時、自分は(自粛したことを)後悔して苦しんだ」と未練を告白するのである。今、だれにも文句を言わせずにエアフォース・ワンに乗れるようになった大統領の高揚感がわかる。

 高揚の中でも、大統領が忘れてはいけないことがある。一つは、自家用ジェットに象徴されるロビイストや特別利益団体について、大統領がその影響力を制限する、と選挙で公約してきたことだ。オバマ政権が講じる景気対策は史上空前の7870億ドル(約72兆円)。うち公共投資など6割を超える歳出は、利権の “宝の山”ともいえる。予算執行にあたり、ロビイストたちにどれだけ活躍の場を与えないようにするか、大統領は毅然と仕切らねばならない。

 すでに大統領は、税金の申告漏れや医療業界との癒着などが取りざたされたトム・ダシュル前民主党上院院内総務を厚生長官に指名する、という「大失策」(大統領)を犯している。ダシュル氏は2月3日に指名を辞退したが、2日後のエアフォース・ワンの初乗りで、大統領はその苦味を噛み締めたかどうか。

 もう一つは、大統領自身が著書に書き残していることだ。

 商用機の旅客に戻ったオバマ氏が搭乗を待って並んでいると、見知らぬ30代半ばの男性が近寄ってきた。自分が患う病の治療法改善のため、ブッシュ政権が規制してきたヒト胚性幹細胞(ES細胞)研究を解除してほしい、という懇願だった。「自分には遅すぎるかもしれないが、同じ苦しみを他の人がする必要はない」との訴えを聞き、オバマ氏は自らにつぶやいた。

 「自家用ジェットで飛ぶと、こういう話が聞けなくなる」

 エアフォース・ワンに乗れば、ますます市井の人は遠くなる。だからこそ、乗るたびに初心を思い出す――。そんな「スピッフィー・ライド」を大統領に期待したい。

出典/White House

◆次回更新は4月3日(金)を予定しています。
 


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