元・在上海日本総領事の
杉本信行氏が示したすぐれた見識
今や新たな歴史的段階に入った日中関係とは、とりわけ環境問題をめぐる関係とはどのようなものであるべきか。
かつて在上海日本総領事を務めた故・杉本信行氏の遺作『大地の咆哮』(PHP)によると、すれ違いの日中関係を辛うじて維持管理するためには、「わが国のための対中援助」に徹する必要があるという。具体的には共産党体制と、それに喘ぐ中国の一般大衆を厳に区別し、長期的に日本のあり方への理解を促進するべく、共産党体制が真面目に取り組もうとしない環境問題や農村問題における援助を地道に続けるのが望ましいという。
筆者も、長年にわたる対中外交の最前線で培われた卓見に心から賛同したいのはやまやまである。しかし、メディアが共産党に厳しく管理されている下では、これまでの円借款も全くと言って良いほど中国では知られて来ず、単純に「偉大で正しい共産党の指導の成果」になってしまった。中国とその市場の発展に貢献しようという企業の意図すら、官僚腐敗や低賃金労働・目の前の環境破壊という回路を経て、逆に「日本による搾取」に変わってしまう。
とはいえ、その割には相変わらず日本企業の製品がもてはやされ続け、日本に好意的な人々も一定程度いる。
「二つの中国」に直面する日本
我々はまさに、対日観をめぐって著しく分裂しているという意味での「二つの中国」を相手にしなければならないという状況に直面している。
そこで、政治学者である筆者の愚見ではあるが、今後も日本政府及び中国への進出を続ける企業におかれては是非、中国の市場・社会・環境に対して如何なる貢献をしているのかを明示的に示しつつ、国益あるいは収益を確保して頂きたいと考える。あら探しをしようと待ち構える中国のネット世論には要らぬ口実を与えず、公正さに照らして堂々と実務をこなすことが肝要である。
いっぽう中国は、既に円借款を梃子として膨大な国富を得るに至っているのであるから、環境問題をめぐる日本の援助申し出に難色を示すのはむしろ結構なことである。その代わりに、もし優れた日本企業の技術こそ中国にとって必要であると考えるのであれば、掛け値無しで購入して頂きたいものである。ドライな経済関係の積み重ねによって日中関係が辛うじて破綻せず維持されるならば、それこそ互恵的である。とりわけ日本にとっては中国共産党・政府と庶民を分けて付き合い、共産党体制ではなく中国の人々に実質的な利益をもたらすことも出来る。但し、中国共産党政権や過激な中国ナショナリストによる言われなき侮辱を拒絶するのに十分な国力と智力を日本が維持し続けること、ならびに少なくとも日中双方が現在のWTOの下での貿易関係を否定しないことが、その重要な前提であることは言うまでもない。
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