東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を境に、かまびすしかった地球温暖化防止の声がピタリとやんだ。代わって沸きあがった「脱原子力」のシュプレヒコールの下、輸入の化石燃料を焚き続けて早くも2年が経とうとしている。
高くついた輸入燃料費は電気料金の値上げにはねかえるので見えやすいが、表に出にくいのは環境や健康への影響である。
原子力を化石燃料に切り換えた分、二酸化炭素の排出が大幅に上昇した。大気汚染物質の排出も、日本の場合かなり抑制しているとはいえ、増えないにこしたことはない。
おりしも、PM2.5をはじめとする中国からの大気汚染物質が日本の空を覆い始めた。震災前のように、わが国が化石燃料使用を極力抑えているなら文句もいえようが、そうもいかない。環境汚染物質の低減技術供与を提案するにとどまっている。
いかにしてより少ない環境負荷で
より高い環境品質を達成するか
「環境負荷低減」を唱えるだけでは、私たちが直面する複雑かつ地球規模の問題には対処できない。「QOL(生活の質)」のような視点をあわせもつ必要があるのではないか。
震災前からそう感じていたところ、村上周三・建築環境・省エネルギー機構理事長から、「健康維持増進住宅研究委員会」(村上委員長)にお誘いいただいた。健康維持増進の価値を数値化して、住宅の「環境品質の向上」に役立てようという国土交通省の委員会である。
「環境負荷の低減」は、排出量や金額といった数字におきかえて効果が見えやすく、ムーブメントも起こしやすい。しかし一方で、数字が一人歩きして本来の目的からそれたり、QOLを損なったりする。
「いかにしてより少ない環境負荷でより高い環境品質を達成するか?」が、著者の提唱する「スマート&スリム」という理念の根幹であり、本書の通底奏音でもある。