環境品質が高い日本やドイツ
住宅のエネルギー消費と平均気温の国際比較、大震災後のエネルギー供給が途絶えた時の室温低下、入浴中の急死者数と月別平均最低気温との関係、健康維持増進効果もあわせて考慮した場合の断熱住宅における投資回収年数評価・・・・・・など、従来数値化されてこなかったQの視点からのデータが豊富なのも、本書の特徴。著者自身の研究に加え、先に記した委員会などでの最新の研究成果が盛り込まれている。
あらためて、健康や知的生産性、社会の便益といった見えにくい要素こそ、住宅や都市にとっては重要な品質であると、目を見開かせられた。
さらに本書では、先進国と発展途上国の持続可能性を評価したり、「CASBEE都市」を用いて都市の環境性能を比べたりしている。
「QとLに基づく人類と地球の持続可能性評価」では、日本やドイツの環境品質が高く、環境負荷も先進国中で相対的に低い位置を占めている。このポジションから「合格圏」へ、発展途上国も含めてシフトしていくには、「質実ながらもそれなりに豊かな文明を築いていた日本の貢献が特に期待される」と、著者はいう。
「スマート&スリム」という価値観への“道案内”
また、都市を構想する場面での市民、自治体、政府それぞれの役割と取り組みを具体的な事例に即して紹介し、全国自治体の環境性能評価を出しているのも興味深い。
東日本大震災の被災地から選ばれた6都市を含む11都市が「環境未来都市」に、13都市が「環境モデル都市」に指定され、成功事例も出ているという。
「環境モデル都市」の成功の理由として、「指定により、自治体が意欲と誇りを持って取り組んだこと」「補助金依存体質を持たずに自助努力で取り組みを推進していること」などの要因が挙げられている。国による選定やフォローアップに長く関わってきた著者ならではの分析である。
建物スケールの評価ツールは、米国、英国をはじめ、世界に各種のものがある。しかし、「CASBEE」以外のツールはすべて環境負荷Lの削減のみを意図しており、環境品質Qの向上を明示的に導入しているのは「CASBEE」のみである、とのこと。
「スマート&スリム」という価値観への“道案内”となる日本発の優れたコンセプトとツールを、被災地の復興も含め、未来都市の構想にぜひとも生かしていただきたい。
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