2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2022年6月10日

ネット上の情報から活動家を調査

 反イルカ漁キャンペーンの推移を調べる研究が少ない中で、『ザ・コーヴ』公開後、国内外から太地町を訪れる活動家の実態を調べてきた人物がいる。

 ブロガーの岩谷文太さんであり、彼が公開しているブログ「Red Fox」は太地町での反イルカ漁キャンペーンの全体像を把握するうえで、貴重な情報源となっている。活動家や団体が発信する関連サイトや各ブログに加え、フェイスブックやツイッターなどのSNS情報をふまえ、活動家の出身地や過去の経歴などを調査してきたレポートを公開している。

 岩谷さんが2010年当時から行っていたのは、22年のロシアによるウクライナ侵略によって、被害の把握や虚偽情報の特定に大きな役割を果たした「オシント」(オープンソース・インテリジェンス)の手法だった。レポートのあまりの詳細さや正確さに、活動家たちからは「日本の治安当局が民間人を語って太地町滞在リストを作っているに違いない」と疑いがかけられたこともある。

 しかし、岩谷さんは日本の警察などからもちろん内部情報をもらったわけでもない。誰もがアクセスできるネット上のオープンソースを使って活動家たちの素性を調べ上げただけなのだ。

2015年11月、和歌山県太地町の燈明崎で、イルカ漁の実態を監視する反捕鯨団体「シー・シェパード」のメンバー。当時は外国人の活動家が大半を占めていた(筆者撮影)

 岩谷さんがこうした調査を開始した理由は、10~11年のイルカ漁の漁期の際に、シー・シェパードの活動家が漁師を囲んで、悪態をついたり、ヘイトスピーチを浴びせたりした動画を見て、実際、どんな素性の人物が集団リンチを行っているのかを調べ、その背景を明らかにしたいと思ったのがきっかけだった。

 活動家たちは、太地町滞在記をブログやSNSなどを使って発信しており、ウェブ情報には多くの履歴が残っているため、こうした調査が可能になった。しかし、オープンソースに記録が残っているとはいえ、一個人が行うオシントは困難を極めた。

 まず活動家の個人を特定するには、データの海であるインターネット空間の中での有益な一粒の断片情報をかき集める、根気強い作業が必要になった。「一人の人物で相当に時間をかけたケースもあった」という。

訪れる活動家の人数と思想の変化

 岩谷さんは10年以降の活動実態を数字でまとめている。岩谷さんは「オープンソース調査にも限界はある」と前置きし、活動団体が発信する情報を精査するなら、人数を把握する事自体は比較的容易な作業だ、と話す。正確な統計ではないが、太地町を訪れた人物のリストの人数を数えると、10~11年シーズンから年ごとの総人数は以下のような推移になる。

10~11年 88人
11~12年 75人
12~13年 93人
13~14年 192人
14~15年 141人
15~16年 70人
16~17年 68人
17~18年 49人
18~19年 54人
19~20年 54人

 国別では米国出身が最も多く、次に豪州、英国出身が続く。男女別では女性が多いといい、4対3ぐらいの割合で女性活動家が占めていた。『ザ・コーヴ』公開以前から、さまざまな素性の人たちが太地町を訪れていたが、映画公開後はシー・シェパードなど2つの団体の旗のもとで大規模な反対キャンペーンが展開される形態になったという。

 ピーク時の13~15年には、1回の来日で80日以上にも及び滞在する人物や、1シーズンに、何度も出入国を繰り返すリピーターも複数人いた。こうした状況を防ごうと、15~16年シーズンで、日本の入国管理当局が過激な抗議行動を行う可能性の高い活動家を入国拒否措置にしたのだが、岩谷さんのデータからも、外国人の参加人数が次第に減っていったことも裏付けられている。


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