テロ事件の副産物
米ロ関係の好転?
一方、国際レベルでは、今回の事件が米ロ関係の緊密化につながりそうだ。
事件の犯人像が割れるや、ロシアのプーチン大統領は自らオバマ米大統領に電話し捜査への協力を約束した。プーチン政権は反体制派への弾圧で欧米から批判を受けてきたが、2001年の米国同時多発テロ後の「蜜月期」のように、「テロとの戦い」での米露協調をアピールし、批判をそらしたいと考えているようだ。オバマ大統領はプーチン氏に謝意を表明し、両大統領は、米ロ間のテロ対策での協力強化を約束した。そして、米国首脳陣が今回の事件を受けて、チェチェンを弾圧してきたプーチン氏の気持ちが理解出来たなどと語っており、米国政界に親露的ムードが漂ってきている。
実は、最近、米ロ関係は緊張していた。ミサイル防衛計画を巡る対立に加え、「マグニツキー法」を巡る「リスト冷戦」とも言われる対立があったのだ。
「マグニツキー法」とは、2009年にロシア政府の腐敗を追及し続けていたセルゲイ・マグニツキーという弁護士が逮捕されて2009年に獄死した事件に対し、米国は人権侵害を重く見て、その死に関わった者に対し、米国での資産凍結、米国への入国禁止などの「制裁」を行う法律を作ったのである。
これに対し、ロシアはアメリカ人に養子にもらわれた子供の死を理由に「米国民によるロシア人との養子縁組」の禁止という措置で対抗していた。また、米政府が4月12日にマグニツキー法により制裁を受ける18人を発表するや、ロシアも13日に「人権侵害に関与した」として、アディントン元副大統領首席補佐官ら米国人18人(米国の制裁対象人数と同数であることがポイント)のロシア入国を禁止すると発表していた(ただし、米国側のリストに、本来、含まれるべきチェチェン大統領のカディロフが含まれていなかったことから、実は本リストの公開に際し、米ロ間の密約のようなものがあったのではないかという疑念も持たれている)。
だが、最近、米国がミサイル防衛計画の一部を凍結したこともあるが、テロ事件でロシアが協力を申し出たことで両国の協力ムードが高まっている。そのため、23日には北大西洋条約機構(NATO)とロシアの対話も「改善」に向かったのだという。
自国のテロを防げなかったオバマ氏と自国民が他国でテロを起してしまったプーチン氏が、お互いの傷をなめあったようにも見えるが、テロ対策で国際協力が深まることは喜ぶべきことであろう。
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