2022年10月7日(金)

BBC News

2022年9月21日

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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナをめぐり国民向けのビデオ演説で「部分的な動員令」の発動を宣言した。国営タス通信が伝えた。プーチン氏はロシアの領土的一体性が脅かされれば、「あらゆる手段を使ってロシアと国民を守る。これは、はったりではない」と強調した。

プーチン大統領は国民向けのビデオ演説で、西側諸国はロシアとウクライナの和平など望んでいないとして、ウクライナ国民を犠牲にしてでもロシアを滅ぼすことが西側諸国の目的だと明らかになったと批判した。

その上で大統領は、ロシアの目的はドンバスの解放だとして、「解放された土地」の住民を守るため緊急の判断が必要だと説明。「だから私は国防省に、部分的動員に合意するよう要請した」と述べた。

またプーチン氏は、ロシアが制圧したウクライナ領の住民は「ネオ・ナチのくびきの下にいたいとは思っていない」と、侵攻開始前からの主張を繰り返した。

予備役の部分的動員令はすでに署名済みで、21日から実施されるという。招集される市民は全員、戦闘員としての資格を完全にもつことになるともプーチン氏は説明した。

プーチン氏はさらに、西側諸国はロシアを脅し、ゆすり続けているが、ロシアには対抗するための武器がたくさんあると指摘。「この国の領土的一体性が脅かされるなら、ロシアと国民を守るため、我々は持てるあらゆる手段を使う。これは、はったりではない」と強調した。

「わが祖国の領土的一体性、我々の独立と自由は、繰り返す、我々が持つあらゆる手段で確保する。我々を核兵器で脅し、ゆすろうとする者たちは、やがて自分たちに向かい風が吹き、劣勢になることもあると知るべきだ」ともプーチン氏は述べ、「みなさんの支持を信用している」と結んだ。

30万人を段階的に

国営テレビはこの後、事前録画されたセルゲイ・ショイグ国防相の説明を放送。軍務経験がある予備役約30万人を段階的に招集すると述べた。

BBCのサラ・レインズフォード東欧特派員によると、ロシアの予備役は2500万人に上る。

国防相はさらに、学生は招集しないと述べ、学生は「落ち着いて」「授業に出続けるように」と呼びかけた。徴集兵を前線に送り込むこともしないと述べた。ロシア政府は侵攻開始当初、同様の発言をしていたものの実際には多くの徴集兵を前線に配備していた。

ショイグ国防相はさらに、これまでウクライナでロシア兵5937人が戦闘中に死亡したと発言。この人数は西側情報機関の推計や公開情報をもとにした集計よりも、はるかに少ないが、ロシア政府が公式の戦死者数を発表するのは数カ月ぶり。

劣勢のしるしと西側反応

プーチン氏の演説を受けてイギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアのウクライナ侵攻が失敗しつつあるしるしだと反応した。

英国防省は、「国民の一部を動員しないという約束をプーチン大統領が自ら違え」たことで、「侵略が失敗しつつあると認めたことになる」というウォレス氏のコメントをツイート。その中で国防相は、「(プーチン氏)と国防相は何万人もの自国民を、満足な装備を与えず、粗末な指揮官のもと、死に追いやった。どれだけ脅してプロパガンダをまき散らしたところで、この戦争に勝ちつつあるのはウクライナで、国際社会は団結しており、ロシアが世界的なのけ者になりつつある事実は、隠しようがない」と述べた。

アメリカの駐ウクライナ大使、ブリジット・ブリンク氏もツイッターで、「偽の住民投票や予備役動員は、弱さのしるし、ロシアの失敗のしるしだ」と書き、「ロシアによるウクライナ領併合の主張を合衆国は決して承認しないし、我々はいつまでもウクライナを支え続ける」と書いた。

ドイツのロベルト・ハベック副首相は「ロシアがまたしても、まずい、間違った一歩を踏み出した」と批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、予備役招集と住民投票強行はロシアが「パニックしているしるし」だと述べた。

ロシアと国境を接するラトヴィアのエドガルス・リンケヴィッチ外相は、ロシア政府による予備役招集から逃れようとするロシア人に「人道的なものを含め一切のビザを発行しない」と述べた。また、「ラトヴィアに対する軍事的脅威のレベルはまだ低い」との見方を示した。

同様にロシアの飛び地領カリーニングラードと国境を接するリトアニアのアルヴィダス・アヌシャウスカス国防相は、「ロシアの軍事的動員は我々の国境付近でも行われるため、リトアニアの即応部隊は、ロシアのあらゆる挑発を阻止するため、緊急警戒態勢をとる」とツイートした。

動員に上限は ロシア国内で懸念

BBCのレインズフォード東欧特派員によると、プーチン大統領とショイグ国防相の発表を受けて、ロシア国内ではすでに、予備役招集の規模に上限はあるのか、懸念の声が出ている。動員令の実際の文言はきわめてあいまいなため、本当に学生は招集されないのか、疑問視するコメンテーターもいるという。

モスクワで取材するBBCのウィル・ヴァーノン記者によると、予備役招集の報道を受け、ロシアの株価は軒並み急落。国外脱出のため飛行機チケットの購入が急増しているとの情報もあるという。

ロシアの野党指導者で、刑務所に入れられているアレクセイ・ナワリヌイ氏は、予備役招集の発表を受けて、刑務所内で撮影した動画を弁護士経由で発表。その中で、「これはとんでもない悲劇につながる。とんでもない人数が命を落とす(中略)自分の個人的権力を維持するため、プーチンは隣国に侵入し、そこの国民を殺し、そして今や莫大な人数のロシア市民をこの戦争に送り込もうとしている」と批判した。

プーチン政権を声高に批判し続けたナワリヌイ氏は現在、詐欺や法廷侮辱の罪などで11年半の禁錮刑に服しているが、いずれも政権批判をやめさせるために政府が捏造(ねつぞう)した罪状だと主張している。

いつロシアを出られるのか

BBCは、イギリス在住のロシア人男性エフゲニーさん(30)に話を聞いた。エフゲニーさんは、55歳になる自分の父親が動員されるのではないかと心配している。母親には、「あなたはちょうどいい時にロシアを出た、間に合ってよかった」と言われたという。

またロシアに残る友人たちと情報交換したところ、友人たちはいつロシアから出られるのか知るため、あらゆるニュースやソーシャルメディアを確認し続けているという。

「すごくショックだし、この動員がウクライナの人たちにとってどういう意味をもつのかも、想像しがたい。自分の国がとんでもなく恥ずかしい。こんな戦争はいやだ」と、エフゲニーさんは話した。

<解説> ウクライナの反攻成功ロシア警戒――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員

プーチン大統領の強気で好戦的な演説を待つまでもなく、ウクライナでの戦争はすでに危険な段階に差しかかっていた。

東部ハルキウ周辺で2600平方キロ分もの国土奪還にウクライナがいきなり成功したことで、ロシア政府は危機感を抱いた。そのため、ロシアが後押しする分離派が実効支配する東部ドンバス地方で、「ロシア編入」を決める住民投票の実施を、前倒しすることにしていた。

この住民投票は実施前からすでに、やらせだと非難されている。しかし、この投票をもってロシアはウクライナのドンバス全域と南部ザポリッジャ、ならびにヘルソンを、ロシアの一部だと宣言することになるだろう。

国際社会がその結果を承認しなくても、ロシア政府にとってそれはどうでもいいことだ。

ロシア政府にしてみれば、ウクライナはもはや自国領を守るために戦えなくなる。プーチン氏にとって、ウクライナ軍は北大西洋条約機構(NATO)に提供された武器を使ってロシアに侵攻する、侵略者になるというわけだ。

この展開が続けば、ウクライナとウクライナを支援する西側諸国という悪の徒党からロシアの国土を守るためには、極端な手段も辞さないのだという、プーチン流の理屈は、さらに勢いを増すかもしれない。

不見識なウクライナ侵攻が屈辱的な敗北で終わらないようにするための手段として、訓練不足の予備役30万人の招集だけで、プーチン氏が満足するとも思えない。

(英語記事 Putin calls up reservists for war in Ukraine

提供元:https://www.bbc.com/japanese/62981983

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