「安保3文書」の改訂にあわせて
4日のミサイル発射後、自民党安全保障調査会長の小野寺五典元防衛相が「一日も早く反撃能力について明記することが抑止力につながる」と語ったように、事ここに至って、日本が敵の発射基地などを攻撃する〝反撃能力〟を保有することに異論を挟む余地はない。
そうであるならば、国家安全保障戦略と防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画という「安保3文書」の改訂を年末に控えた今こそ、国民はもとより国際社会の理解を得るためにも、日本が戦後、国防の基軸としてきた「専守防衛」を議論し、再定義する必要がある。
その最大の理由は、日本にとって喫緊かつ主たる脅威が明確となったからだ。北朝鮮の弾道ミサイルに加え、8月には米下院議長の台湾訪問への対抗措置として、中国は台湾周辺海域を封鎖する「重要軍事演習」を実施、米国との連携を強化する日本を威嚇するため、沖縄・先島諸島周辺に広がる日本の排他的経済水域(EEZ)に照準を合わせ、5発の短距離弾道ミサイルを撃ち込んでいる。
『防衛白書』(令和4年版)は、北朝鮮について「40から50発の核弾頭を保有しているとの指摘もある」と記述し、中国の核保有について米国防総省の報告書(2021年版)は、少なく見積もっても1000発を超えると指摘している。つまり、いまの日本にとって深刻な脅威とは、中国と北朝鮮の両国が保有、開発する迎撃困難かつ核兵器搭載可能なミサイルにほかならない。広島と長崎に続く第三の被爆地をつくらせないためにも、従来の「専守防衛」という国防の基軸を見直し、再定義することは必須なはずだ。
専守防衛と果たした役割
専守防衛について『防衛白書』は、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」と定義し、受動的な防衛戦略の姿勢だと説いている。
かつて筆者がインタビュー取材した元防衛官僚の宝珠山昇氏(防衛庁官房長など歴任)は「この戦略は、敗戦後、国内には反戦や反軍感情が根強く、諸外国は日本の軍国主義復活を厳しく警戒している中で生まれた」と述べ、「被害に遭った諸外国の安心感を高めるうえで大きな役割を担ってきた」(2003年6月24日、読売新聞朝刊)と語っている。
取材した当時、すでに北朝鮮は核とミサイルの開発を進めており、「防御するだけでは国民を守れないのではないか」という筆者の問いに対し、宝珠山氏は「専守防衛は過去の歴史を反省し、自制した防衛戦略だ。だからといって、国家や人間すべてが持っている正当防衛や緊急避難の権利まで否定しているものではない。生き残るために、専守防衛のあり方を原点から見直し、その中身を改革する必要が生じている」(同)と言い切っている。
まさに正鵠を得た指摘だったが、残念ながら、専守防衛のあり方をめぐる議論が活発になることはなかった。15年前後に繰り広げられた平和安全法制をめぐる国会審議でも、専守防衛はむしろ、防衛力や自衛隊の運用を制約するための論拠となってしまった。