フォグルは本当にCIAだったのか
2つ目の不可解な点は、アメリカから発せられている。
アメリカの元諜報部員やスパイ活動に詳しい専門家は、フォグルがかぶっていたかつらに注目している。
特訓を受けたCIAのエージェントが果たして、むしろ着用することで周囲から目立つ派手なかつらをかぶるだろうか?
さらには、フォグルが持っていたのはiPhoneではなく、普通の携帯電話だった。コンパスや地図を持っていることからしても、2年以上住んでいる割にはモスクワの地理に疎いことがうかがえ、騙し合いに勝たなくてはいけないエージェントが持ち合わせる的確な技量を身につけていることは疑わしい。
実際、アメリカのテレビ局CNNに出演した専門家は「フォグルはCIAの諜報部員であるということに大きな疑問を持っている」と述べている。
こうしたことから、アメリカ側で、今回の拘束事件が、「相手がしかけた罠である」という疑惑が浮上している。
ロシアの「大人の対応」
最後に言えるのは、この拘束事件のロシア側の手打ちが非常に早いということだ。事態を最小限にとどめようとするプーチン政権の配慮が色濃くにじみ出ているのだ。
事件発覚後、ロシアのラブロフ外相がアメリカのケリー国務長官とスウェーデンで会談した。2人は5月初頭にケリーが訪れたモスクワで、悪化していた米露関係を修復すべく努力することで合意したばかり。特に、死者8万人を超えたシリア内戦では、米露双方が協力して政治的解決に全力を尽くすことで一致した。
ラブロフは、フォグル拘束事件を、ケリーとの会談で取り上げないことをこんな表現で報道陣に伝えた。
「私は事件は今回の会談とは無関係であると決めたんだ。なぜなら全てのことがすでに明らかで、全ての人々が全てのことを知っているのだから」
政権に近い主要政治家の事件の反応はおしなべて一致していた。下院国際問題委員会委員長のアレクセイ・プシュコフは、英字紙モスクワ・タイムズの取材にこう答えた。プシュコフは、フォグルなど取るに足らないと述べたのである。