2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月31日

 しかし、ASBは、中国と米国およびその同盟国の間での通常戦力による高強度の紛争を抑止することに最適化されているので、海洋紛争における軍事的威嚇のような、中国による小規模な攻撃に対しては、エスカレーションを避けるのに効果的ではないであろう。それゆえ、東南アジアの同盟国・友好国は、ASBに対して、はるかにアンビヴァレントになるのである。

 さらに、米国の中国の軍事的台頭への大戦略の中で、ASBがどのように適合するのか明らかではない。それを明らかにしないと、ASBは軍事的に中国を封じ込めるものとのイメージで見られ続けるであろう、と論じています。

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 これは、エアシーバトルの戦略的概念が混乱していることを指摘した論説です。

 本来エアシーバトルは、純粋に軍事戦術的な議論であり、いかなる状況においていかなる戦術と兵器が必要かを明らかにして、軍事力配備態勢と所要戦力の整備の参考とするための理論です。そして、その理論上の対象となるのは、増大する中国の軍事力の脅威であるのは当然であり、それを考えておくことは、米軍の兵力整備上必要なことです。

 しかし、それとは別に対中戦略を論じたものがないので、米国の対中戦略が中国との戦争を前提にしているようにとられて、豪州内で批判があるということを、この論説は指摘しているわけです。日本で、エアシーバトルについて、この種の反戦平和主義的な議論が生じていないのは幸いです。防衛論争においては、いつの間にか、日本の方が豪州などより成熟しているのかもしれません。

 ただ、南シナ海などにおける中国の低強度の挑戦に対する答えになっていないので、地域諸国を安心させていないというのは、良い指摘です。それは、エアシーバトルの起草者の目的意識から考えて当然のことであり、この懸念を払拭するためには、米国としては、低強度のエアシーバトルも考えねばならないことになります。尖閣問題に対する対応を考えても、それは容易に答えの出る問題ではありませんが、決して避けて通ることのできない問題です。

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