2024年4月24日(水)

世界の記述

2022年10月29日

 ただ、トラス氏と同様に、世間を賑わすスキャンダルが発覚している。今年始め、新首相の妻が海外から得ている収入の一部を、英国内に納税していなかった。

 このようにエリート出身で億万長者でもある首相が、生活難に喘ぐ国民をどこまで理解できるのか。そして、2024年に予定されている総選挙までに、景気をどの程度回復させることができるか。課題は山積している。

EU諸国でも起こり得る社会的不安定さ

 リズ・トラス氏が招いた「45日間の混乱」は、英国だけで起きた現象に留まらないだろう。欧州連合(EU)においても、エネルギー問題やインフレによるさまざまな危機に直面している。

 フランスでは、ガソリン代高騰などによる国民の怒りが募っている。ガソリンスタンドで喧嘩する市民の光景が連日、テレビで報道されており、コロナ禍以前に起きていた暴動の再来も予感できる。10月18日には、賃金引き上げを求める10万人規模のデモも発生している。

 イタリアでも、初の女性首相が就任し、極右政党「イタリアの同胞」による連立政権が22日に発足。このような極右政権を軸にした政権が誕生する背景には、経済の低迷や物価高などによる国民の不満があるからだ。同国の経済成長率は、1999年からコロナ前の2019年までの約20年間で、ドイツの30.2%、フランスの32.4%、スペインの43.6%に比べ、わずか7.9%だった。 

 このようにEU諸国でも、いつどこで国の経済が揺らぎ、社会全体に混乱をきたすか予測できない状態にある。特に、貧富の格差は確実に生まれており、貧困層はさらに経済的困窮に追い込まれている。スペインでは、街中での殺傷事件が水面下で増加している。

 欧州では、ストやデモといった形で国民の不満や怒りが表面化されやすい。貧困問題も、直接、街の中で目にすることが多い。しかし、日本の場合、これらの現象が見え難く、気づいた時には想像以上の事態になっているという危険性を孕んでいる。

 他国の政治問題や経済危機の動向を把握しておく必要はあるだろうが、実は日本のマグマも爆発寸前であることを、日本政府はもっと敏感に捉えておくべきかもしれない。

   
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