2024年4月29日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年6月13日

 当初、崔を迎えたのは王家瑞対外連絡部長であった。その後、劉雲山政治局常務委員、範長竜党中央軍事委員会副主席とそれぞれ会談した後に習近平国家主席とも会い、悪化していた中国との関係改善をアピールしたのである。

 では、この一連の対中外交をもって北朝鮮を“外交巧者”と呼ぶ意味はどこにあるのだろうか。それはズバリ5月以降の北朝鮮の行動が、あたかも「歩み寄ってきた」ように国際社会の目に映っている――少なくとも日本の大手メディアの受け止め方も同じだ――現状を見れば明らかだろう。だが、改めて指摘するまでもなく3回目の核実験にミサイルの発射など外交的な成果を一方的に結実させてきたのは北朝鮮なのであって、6カ国協議に席を持つその他の国が北朝鮮の核保有の動きに対しブレーキをかけるような成果を得たことはないのである。

北朝鮮が話し合いのテーブルに着いただけで
大きな達成感を味わった中国

 なかでも中国に至っては、北朝鮮が話し合いのテーブルに着くということだけで、大きな達成感を味わっているようにも見受けられるのである。

 興味深いのは、王家瑞との会談後、中国は崔のもたらした話から金正恩が特使を派遣した真意を詳細に検討し、その結果ギリギリのタイミングで習近平との会談をセットしたことだ。このことは一部の新聞も報じているが、中国のこうしたやり方は歴史問題で対立したときの日中関係でしばしば見られるもので、直近では公明党の山口代表の訪中がまさにそうであった。

 今回、最初に出してきた王家瑞は、党中央対外連絡部(中連部)の対北朝鮮外交のスペシャリストであるため何の違和感もないが、今春の両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)で政協副主席になっていることから数カ月後には引退するという意味でも国内政治的には「すでに過去の人」と位置付けられる人物なのだ。

 このことは対日外交において、日本では「外交の大物」と紹介されるが国内政治的には影響力の小さい唐家璇を出してくるのにも多少似ている。そして王家瑞との会談の翌日に劉雲山と会わせたことで、外交上も決して非礼にならない政治局常務委員を出したという実績も作り、たとえ習近平に会わせなくても北朝鮮のメンツはギリギリ保たれるという道も残していたのである。

相手の出方が読み切れずに困惑していた中国

 中国のこうしたやり方は、要するに相手の出方が読み切れず困惑しているケースで取られる常とう手段ともいえるだろう。このことを踏まえれば、「中国には北朝鮮の“考え”がまったく見えていない」ことは明らかで、朝鮮半島をめぐる情勢は決して中国主導で動くのではなく、あくまで北朝鮮が中心だという視点ははずすべきではないのだ。


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