年齢、出自に関係なく適材を登用する
150年を超えるホットマンの歴史は、数々の試練を乗り越えてきた歴史でもある。関東大震災や第二次世界大戦、戦後の好況と不況、リーマンショック─。苦境を乗り越えて存続してきたもう一つの要因が、その経営スタイルにある。
坂本さんは創業家の出身ではない。信州大学繊維学部で学んでいた時、繊維メーカーでモノ作りだけでなく、最終商品の販売までしている会社に就職したいと考えていたところ、研究室の教授にホットマンを紹介された。1999年、地縁のなかった青梅にやってきて入社した。
織布工場や染色工場、仕入れなど製造畑で経験を積み、28歳で生産部門のトップになった。そして2015年、38歳の若さで7代目の新社長に抜擢された。
創業家や大株主に関係のない新卒入社の社員が38歳で社長になるというのは世の中にそうあることではない。年齢や出自に関係なく適材をトップに据えるというカルチャーがホットマンには生きていた。社長、相談役を務めた創業家の3代目社長の信念で、4代目以降の社長はすべて社員から選んできた「歴史」もあった。
そして今、コロナ禍を経て、原料価格の上昇とインフレというまったく異なった環境に直面しつつある。試練に直面する若き社長はどうそれを乗り越えるのか。
「いい人からしかいいものは生まれません。とにかくお客様にも取引先にも従業員にも誠実であること。それがこの会社の原点です」。そう言って坂本さんは微笑んだ。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa