2024年4月19日(金)

新しい原点回帰

2022年12月28日

「秦野産ジビエ」ボーイスカウト

祖父のイニシャル「K」を入れたかつての看板

 佐野さん自身、地元を支えることに力を注いできた。今も秦野商工会議所の会頭として地域活性化に知恵を絞る。市の北部に連なる丹沢山系で増える野生のシカやイノシシを生かした「ジビエ料理」を地域の名産品にすべく旗を振っている。手打ち蕎麦に、鹿肉のそぼろを載せたメニューなどが次々に生まれるなど、「秦野産ジビエ」も徐々に浸透してきた。

 地元のボーイスカウトの指導者としても長年奉仕し、地域の子どもたちの育成に力を注いできた。もとは中学校3年生の時に担任の教師に勧められてボーイスカウトに入隊したのがきっかけで、野外活動だけでなく地域の奉仕活動などに熱中した。社会人になって十全堂を経営する一方で、ボーイスカウトの指導者として奉仕を続けてきた。神奈川県連盟の理事長などを務め、今は日本連盟の専務理事として財団運営にも携わる。

 そんな子どもの育成が、ひょんな格好で十全堂の経営にもつながっている。12年、65歳になるのを機に社長職を譲り、会長になった。専務として佐野さんを支えてきた弟がいるが、「もう一族で経営する時代ではないだろう」ということになり、社員の中から社長を選んだ。選ばれた現社長の大島正さんは、実はボーイスカウトの佐野さんの教え子だった人物なのだ。小学生年代の「カブスカウト」の隊長を佐野さんが務めていた時に入隊してきた。以来、大島さんもボーイスカウトに関わり続けている。「佐野隊長に憧れて薬剤師の道を選んだのです」と大島さんは笑う。

 果たして十全堂はこれからどう姿を変え生き残っていくのか。

 「これからは地元の医療・健康インフラを総合的に支えることが重要になると見ています。薬局は薬を売っていればそれで終わりという時代は終わりました」と佐野さんは語る。医師や看護師、介護士などと連携して、地元で生活する人たちの健康をサポートする拠点に佐野十全堂薬局がなっていく、というわけだ。すでに十全堂では居宅介護支援事業にも乗り出している。時代の変化を読みながら、地元のニーズに応えていく─。佐野さんや大島さんの思いが、これからも十全堂を地元に根ざした存在であり続けさせるに違いない。

明治時代に創業した当時〈右〉と、大正時代の店舗〈左〉。明治時代の店頭には「ヱビスビール」の提灯が見える。大正時代は「TRADE MARK」の文字も見え、洋館の構えになっている 

写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa 

   
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