
ジェイムズ・ウォーターハウス(キーウ)、ジョージ・ボウデン(ロンドン)、BBCニュース
ロシアの民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」は10日、ウクライナ東部の町ソレダールを制圧したと主張した。一方でウクライナ政府は、自軍が抵抗を続けているとしている。ロシアによる侵攻が続くウクライナの戦地には、同組織の雇い兵が投入されている。
ロシアメディアはワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏によるものとする声明を10日遅くに伝えた。その中で同氏は、ソレダール中心部で現在、ウクライナ人が包囲されているとしている。
プリゴジン氏はまた、「ワグネルの部隊がソレダールの全領土を制圧した。中心部で敵兵が孤立しており、市街戦が行われている 」と述べた。
同声明は、ソレダールにおける「襲撃」に加わっているのはロシア軍に属さないワグネルの戦闘員だけだと主張した。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は先に、「激しい戦闘が続いている」と述べていた。
「敵は自分たちの隊員が受けた大損失を気にも留めずに、積極的に襲撃を続けている」
「我々の陣地へ向かう道のりには敵の戦闘員の遺体が散乱している。我が軍の兵士は勇敢に防衛している」
両者の主張は独自に検証できていない。
ソレダールはウクライナ東部ドネツク州にある小さな塩鉱山の町。地下の採掘トンネルを掌握すれば、ロシア軍が戦略的に重要視する近くの街バフムートを包囲しやすくなる可能性がある。
イギリスは10日、ワグネルの主張に先立ち、ロシア軍とワグネルがソレダールを掌握している「可能性が高い」との見方を示していた。ただ、ウクライナの「安定した防衛線」により、ロシア軍がバフムートを直ちに占領する「可能性は低い」ともしている。
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ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、ソレダールには「生命はほとんど残っていない」、「すべての壁が残っている建物はない」と述べた。
そして「これが狂気の姿だ」と付け加えた。
10日遅くのビデオ演説では、ウクライナ軍の回復力を称賛した。
ソレダールの戦略的重要性
ソレダールの戦略的重要性についてはさまざまな議論がなされているが、ロシアにとってこの町を掌握することは2つの点において重要だと言える。
まず、ソレダールから近いバフムートにじりじりと接近できるようになる。昨年4月以降使われていない、ソレダールの地下深くにある街のような塩鉱山の採掘トンネル網を利用し、ウクライナの支配地域に侵入できる可能性がある。
そして、ロシアの侵略軍がウクライナに仕返しすることが可能になる。
ウクライナはロシアの補給路を攻撃することで、自国の領土解放へつなげてきた。ロシアの数千人規模の侵略部隊は、長距離ミサイルによる攻撃を受けて人員や弾薬、燃料などを補給できなくなることが増え、軍用装備品を自由に移動できなくなった。
ソレダールがロシア軍に占領されれば、バフムートはスロヴィヤンスクからの主要な補給線から事実上切り離されることになる。
一方、ウクライナで名高い軍事アナリストのオレグ・ジュダノフ氏は、ソレダールとバフムートはいずれも、作戦上とくに重要ではないとみている。
ジュダノフ氏はウクライナ紙「ガゼータ」が9日に掲載したインタビューで、ロシアは「自軍に勝利する能力があることを世界に証明しようとしている」と述べた。
米シンクタンクの戦争研究所 (ISW)は、プリゴジン氏が「ソレダールとバフムートにおける、現実とでっち上げの両方のワグネル・グループの成功を利用し続け、ワグネル・グループがウクライナで明白な利益を確保できる唯一のロシアの部隊だと宣伝するだろう」と指摘している。
ソレダールの制圧はロシア政府にとって、軍事的勝利と同様にプロパガンダの勝利となる可能性がある。
ロシアが得られるものは比較的小さく、犠牲も伴うが、ソレダールはロシア国内の批評家に見せつけるために切望していた戦利品になるとみられる。