昨年末、連立政権が発足したばかりのイスラエルで22日、内相が解任された。ネタニヤフ首相が最高裁の罷免要求に抗し切れなかった。解任劇の背景には刑事被告人である首相が自らの裁判を利するために推進している「司法制度改革」がある。
これを〝司法改悪〟と非難する反対派が全土で抗議行動を展開するなど国内は大混乱。中東唯一の民主国家で何が起きているのか。
衝撃と誤算
最高裁の判断は首相にとっては衝撃だった。政権発足からわずか26日で要の人物を切らざるを得なかったからだ。
最高裁は先週、デリ内相兼保健相が2021年に脱税で有罪判決を受けていながら入閣していることを「基本法(憲法に相当)の規定に反している」と判断、首相に罷免要求を突き付けた。基本法では、有罪判決を受けた人物が7年間、閣僚などに就けないことを定めている。
しかもデリ氏は有罪判決を受けた際、執行猶予が付与されることと引き換えに、政界を引退すると約束していた。にもかかわらず、宗教政党「シャス」の指導者として政治活動を継続。11月の総選挙では、連立政権でネタニヤフ氏の「リクード」に次いで多い11人を当選させ、政権内第2党に躍進した。
ネタニヤフ首相はデリ氏や極右政党を取り込んで64議員(過半数60)の支持を取り付け、安定政権を樹立できた。首相はデリ氏が有罪判決を受けているため、このままでは閣僚ポストに就けないことを十分知っていたが、「シャス」の協力なしでは政権を発足させることができないのも現実だった。
このため権謀術数を得意とする首相は政権発足直前、「執行猶予付きの有罪であれば、閣僚に就くことが可能」と基本法の内容を改定し、デリ氏を入閣させた。だが、最高裁がそうした首相の対応を無視し、罷免という判断を示したのは大きな誤算だった。最高裁判事11人のうち10人が罷免の判断を支持したという。