2024年5月22日(水)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年2月2日

 無料で利用できる暗号化機能が備わったメッセージングアプリケーションはいくつか存在する。その中でテレグラムがユーザーを獲得した理由の一つは、『米国政府や米国のテック企業との組織的あるいは金銭的繋がりがないこと(Maréchal 2018,5)』であろう。ロシア、イランなど、米国との関係が良好とは言い難い国々で利用者を獲得した。

 同じくベラルーシ、香港などの言論の自由がリスクに晒されている国々において、政府の検閲を懸念する市民がテレグラムを用いるようになった。人権活動家御用達アプリ(Go-to platform)と称され、世界中で言論の自由の確保に貢献している(Access Now, 2021)。

 22年のロシアによるウクライナ侵攻を機にテレグラムはさらに存在感を増した。ウクライナのゼレンスキー大統領を中心にウクライナ側が、自国民と世界に対して自らの主張を届ける手段としてテレグラムを用いたことが大きい。

 もう1つの大きな理由はテレグラムが、戦争の当事国であるロシアとウクライナ両国で一般的に使われる数少ない共通の通信サービスであったことにある。ウクライナ侵攻を契機にフェイスブックやツイッターなどのSNSが、ロシア政府による利用制限の対象となった。ロシア国内と世界を結ぶ数少ない窓口として、ロシアの市民が外の世界の動きに触れることのできるメディアとして、テレグラムの相対的な重要性が増した。

 なお、通信インフラをめぐる国家間の争いについては、筆者が共著に加わった、『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』(ウェッジ)の第5章に記した。

悪用されるテレグラム、規制の試み

 人権活動家や反政府活動家にとって無くてはならないテレグラムであるが、同時にテロリストや犯罪者にも頻繁に利用されてきた。テロリストや犯罪者もまた政府の監視や検閲の及ばない通信手段を必要としているからである。

 例えば、15年のパリ同時多発テロでは、過激派組織イスラム国(ISIL)の支援を受けたテロリストたちがテレグラムを使ったリクルート活動を行い、破壊工作の準備を行っていた(Tan 2017)。本記事の冒頭にあげた、日本の広域強盗グループが連絡にテレグラムを用いたというのも、このような例の1つに数えられるだろう。

 「ルフィ」以前にもテレグラムは問題になってきた。日本でも特殊詐欺のグループがテレグラムを使ってメンバーを募集していることが数年前に報道され、話題になった。本稿執筆時点でもテレグラムを起動すると、隠語を用いているとはいえ違法薬物の取引を持ちかけるチャンネルが表示される。サイバー空間が無秩序だった1990年代にタイムスリップした雰囲気がするアプリである。

 その雰囲気は少なくとも筆者が観察している2020年から23年の間で大きな変化がみられない。つまりテレグラムには日本の法制度を遵守し、ユーザーの投稿を吟味し削除などの対処を行う意思がない。あるいはその意思はあっても、対処能力が他のSNSと比べて低いと考えられる。

 したがってテレグラムの歴史は、このようなテロリストや犯罪者の存在を理由に規制を求める政府と、言論の自由を理由に政府の干渉をはねのけようとするドゥーロフそしてテレグラムの戦いの歴史でもある。

 例えばロシアでは、16年に法律が制定された。情報サービスは、全てのメッセージを6カ月保存することや、暗号データを復号できる鍵を当局と事前に共有することを定められた。

 これに対しテレグラムは復号鍵を提出せず、多額の罰金を支払うことを選んだ。テレグラムの弁護士によれば、復号鍵の提供はロシアの憲法違反であるし、テレグラムのシークレットチャットは復号鍵をテレグラム自身が持たないので提出が不可能であるという。


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