1月30日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙の解説記事‘Israel Drone Strike Hit Iranian Weapons Facility’が、1月29日にイスラエルが行ったドローン攻撃の目標は、イランの最新兵器の生産施設であった可能性があると指摘、米国とイスラエルの高官がイランについて協議している最中にこのような攻撃が起きたのは、イスラエルのネタニヤフ新政権がイランに対して曖昧な姿勢を続けているバイデン政権に対して圧力を掛けようとしていることを示唆していると分析している。要旨は次の通り。
1月29日に行われたイスラエルによるイランに対するドローン攻撃は、イスラエルのモサド(対外情報部)がイラン中央部イスファファンにあるイラン国防省の施設を狙ったものであり、4カ所に対して正確な攻撃を行った。
この攻撃に詳しい関係者は、攻撃された国防省の施設は軍需工場だとしており、道路をはさんで宇宙研究センターに所属する施設があるとしている。この宇宙研究センターは、物質・エネルギー研究所を含むが、イスラエルの研究者によれば、物質・エネルギー研究所は、ドローン、ミサイル、人工衛星の研究開発や核開発のための資材のテストを行っている可能性がある。同研究所の研究は新兵器の生産に用いられている可能性もある。
宇宙研究センターのウェブサイトでは、リバース・エンジニアリング(第三者の機材を分解して模倣すること)を行っているとしていることから、宇宙研究センターは、ロシア側が提供した軍事技術をコピーしていると見られ、国防省のために最新兵器の生産ラインを製造していると考えられる。
1月30日、イランの国営メディアは、攻撃に使われた小型ドローンの破片を示したが、ほぼ間違いなく中国製のクワッド・コプター(プロペラが4つあるドローン)と見られ、その限定的な航続距離から考えると、イラン国内から発進したと思われる。
今回の攻撃は、イスラエルと米国の高官がロシアとの軍事協力を含めたイランの(国際情勢と地域情勢への)非安定化の動きに対する新たな対応策を協議している最中に起こった。すなわち、このドローン攻撃は、ブリンケン米国務長官の中東訪問の直前に起こり、また、バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、非公式にイスラエルを訪問し、イラン他の地域の問題について協議していた。
さらに、1月23~27日、米国とイスラエルは、両国の7500人の人員を動員して過去最大の共同軍事演習を行い、防空能力と空中給油をテストしたが、両者はイランに対する大規模な攻撃を行う場合の重要なファクターである。
バイデン大統領のイラン核合意を復活させる努力は行き詰まっている。しかし、米国は(核合意再開のための外交交渉に代わる)代替案を進めておらず、ネタニヤフ・イスラエル首相はイランに対してより厳しい姿勢を取るよう米国に圧力を掛け続けている。
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米国政府がロシアのウクライナ侵攻と中国のアジア・太平洋の進出にかまかけて、イランの核開発問題を初めとする中東の問題に手をこまねいている事に対しては、米国内でも批判が起きているようだ。
今回のイスラエルによるドローン攻撃は、この記事が指摘する通り米国務長官とCIA長官がイスラエルを訪問するタイミングで起きていることから、イスラル側も米国政府の不作為を不満に思い、米国に圧力を掛けようとしていることを示唆している。
他方、2月2日にようやくイラン側が、今回の攻撃はイスラエルによるものとして同国を非難したが、記事の指摘が正しく、イラン国内に侵入され同国内からドローンが発射されたのならば、イランの面子は丸潰れであり、今回の攻撃に対してイランが何らかの報復を行うことは必至であろう。