2022年12月26日、北朝鮮の無人機(ドローン)5機が韓国の領空を侵犯し、そのうち1機が5時間以上もソウルの上空を飛行しただけでなく、最重要施設である大統領執務室を撮影したことが報じられたことは記憶に新しい。
そして、この松の内を騒がせたドローン事件が、韓国軍のドローン開発に弾みをつけてしまい、朝鮮半島がドローン戦争の最前線になるかもしれない状況を生み出してしまった。そこで本稿では、北朝鮮と韓国のドローン戦力の現況とロシア・ウクライナ戦争でのドローンの活用から、ドローンが戦争の様相に与えた影響を論じることにしたい。
韓国を縦断して偵察した北朝鮮ドローン
韓国の情報機関、国家情報院はドローン事件を受けて、1月5日、国会情報委員会で北朝鮮のドローンについて、「現在、1〜6メートル級の小型機を中心に約20種、500機のドローンを保有しており、自爆型、攻撃型も少数保有していると見られる。(今回の事件で)遠距離撮影用の中大型機の開発動向も確認されたものの、まだ初期段階にある」と報告した。
この報告が事実であれば、北朝鮮は相当なドローン戦力を保有していることになる。実は、北朝鮮は2014年と17年の2回、韓国にドローンを捕獲されるという失態を犯しているので、そのときの状況から、北朝鮮ドローン戦力の一端をうかがい知ることができる。
14年3月、ソウル北方の坡州と黄海上の白翎島でそれぞれ1機が捕獲された。中国製の商用ドローンを改造した機体に日本製の一眼レフカメラを積んだ両機は、150キロメートルほど偵察飛行した後、何らかの原因で墜落したものと見られている。この当時のドローンは、38度線からそう遠くない場所を偵察するために使用されていたようだ。
次いで17年6月に発見されたドローンは、韓国中南部の慶尚北道星州まで266キロメートルを飛行し、帰投中に224キロメートル進んだところで墜落した。この距離感を日本に例えるなら、東京から浜松まで飛行して、戻る途中に横浜で墜落したことになり、北朝鮮の偵察用ドローンが3年間でいかに進化したのかわかるだろう。
ドローンに搭載された日本製一眼レフを確認したところ、星州に駐屯する米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)発射台など555枚を撮影していた。このことから、北朝鮮がドローンを軍事的な情報収集、つまり航空偵察のプラットホームとして使用していたことが推察される。14年のドローンと比べて、航続距離が増大したのみならず、米軍のミサイル防衛網の一端であるTHAADの基地を偵察するという、非常に実戦的な任務にドローンが投入されたことは注目に値する。