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田部康喜のTV読本

2022年12月16日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHKスペシャル「金正恩の北朝鮮~〝先鋭化〟の実態を追う~」(12月11日)は、調査報道の正統派をいく力作である。新型コロナウイルスによるパンデミックとウクライナ戦争が、北朝鮮の〝先鋭化〟をより進めていることを明らかにする。

(ZUMA Press/アフロ)

4000ページもの最新文書が明らかにすること

 「第三次世界大戦は始まっている」という、フランスの人口学・家族学者であるエマニュエル・ドットの言葉のように、世界はいま「パクス・アメリカーナ」時代が大きく揺れ動いている。

 北朝鮮は今年に入ってから、歴史的に最大多数のミサイルを打ち上げながら、明らかに核開発に拍車をかけている。番組の取材チームは、北朝鮮から流れた大量の最新文書を入手するとともに、衛星写真から北朝鮮が国連安全保障委員会の制裁を逃れて、後ろ盾となっている中国に石炭の輸出を試みていることなどを明らかにした。

 ロシアによるウクライナ侵攻、パンデミック……、大転換期の世界地図のなかに北朝鮮を位置づけることに番組は成功している。独自の調査報道に自信過剰になることなく、北朝鮮の多数の専門家の意見を織り込んでいる。ルポルタージュの力作である。

 テレビはまさに「いま」を描くメディアである。新聞や雑誌、書籍も北朝鮮を扱っている。それでもなお、NHKスペシャルの調査報道には刮目させられる。

 取材班が入手したのは、北朝鮮の労働党組織指導部や朝鮮労働党出版社、秘密警察に相当する国家保衛省が、政府の幹部に情報を知らせる4000ページにも及ぶ文書である。しかも、2018年から22年までの最新の情報である。

 北朝鮮の専門家である、元公安調査庁の坂井隆氏と慶應義塾大学教授の磯﨑敦仁氏が、分析の結果、真正と判断した。

 膨大な文書が明らかにしているのは、まず、新型コロナによって、北朝鮮の政府が国民に対する統制を強めているという事実である。

 地方の住民の窮状と不満が文書に盛り込まれている。

 「新型コロナウイルスのせいで(生活が)もっと厳しくなる。一部の薬は在庫がなくて買えなかった」と。

 日本の警察に相当する社会保全省の言葉として、次のような文言が文書にみえる。

 新型コロナを「国境封鎖を破ろうとする犯罪行為との闘争」と位置付けている。「非合法な越境や密輸入、非合法な携帯電話の使用行為などを発見すれば、該当法機関に申告すべき」

 さらには、住民が国境に近づけば「無条件に射撃する」と。


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