2024年12月10日(火)

補講 北朝鮮入門

2022年10月11日

 北朝鮮が9月9日の建国74周年を前に、核の先制使用を認める新たな核ドクトリンを提示した。対米抑止のための開発だという従来の姿勢から大きく方向転換し、米韓による「斬首作戦」などに警告を発したことになる。このタイミングでの核ドクトリン発表は、中国に気兼ねして強行できずにいる核実験の代替措置としての意味合いも強そうだ。新たな核ドクトリンについて考えてみたい。

(Korean Central News Agency/Korea News Service/AP/アフロ)

中国との関係で変わる核開発

 9月7、8の両日、平壌で最高人民会議第14期第7回会議が開催された。8日に法令「朝鮮民主主義人民共和国の核兵力政策について」が採択され、金正恩総書記が「偉大なわが国家の無窮の繁栄のために」と題する1時間ほどの演説を行った。

 これが新たな核ドクトリンと言われるものである。これらを報じた9日付『労働新聞』は通常(6ページ)の倍以上となる14ページ建てで、極めて重要視されていることが分かる。

 金正恩体制になって1年4カ月となる2013年4月に採択された従来の核ドクトリンは失効した。この間に核実験を4回強行したほか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む各種ミサイル発射実験を繰り返し、兵器開発の進展に自信を深めたことが背景にあろう。

 今年春からは通算で7回目となる核実験の準備が終了したと見られているものの、実際には行われていない。10月16日の中国共産党第20回大会を前に習近平政権を気にして抑制的な態度を取ってきたものとみられる。習近平政権は北朝鮮のミサイル開発は黙認しているが、核開発、なかんずく核実験には明確に反対の意を表明しているからである。中国は、北朝鮮が核開発を進めれば、日韓も核兵器保有を求めるようになるという「核ドミノ」のほか、核実験に伴う放射能漏れも懸念しているとされる。

 核実験を繰り返した16、17両年は、中朝関係が非常に悪化した時期だった。『労働新聞』が中国を名指し非難するほどで、両国の現政権下では首脳会談を一度も開けていなかった。だからこそ北朝鮮は、中国の反発を気にせず核実験を好きなように強行できたのである。

 現在は全く違う。北朝鮮が米韓に対話攻勢をかけ始めた18年から、中朝は短期間に5回も首脳会談を開いた。金正恩は米韓との首脳会談の前後に訪中を繰り返し、習近平も19年6月に中国の国家主席として14年ぶりとなる訪朝で応じた。金正恩は、対米交渉力を高めるためにも中国との関係を固めた方がいいと判断したのだろうが、米国との交渉が決裂したことで対中関係の重要性はさらに高まった。


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