2023年2月4日(土)

補講 北朝鮮入門

2022年10月11日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て、現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 金正恩は米国を「悪の帝国」と非難しつつ、米国から身を守るために核保有の必要性を繰り返し訴える。その一方で、北朝鮮が核政策を変更する状況を作るためには「世界が変わらねばならず、朝鮮半島の政治軍事的環境が変わらなければならない」と主張し、「(北朝鮮が)先に核放棄する非核化は絶対にない」と断言する。

 そこから読み取れるのは、自ら核放棄する意思はないものの、米国との交渉自体を否定するわけではないという考えだ。金正恩はバイデン米政権の対北朝鮮政策が当面変わらないと考え、米国と没交渉の間に中長期的な視野に立った軍事力強化を図ろうとしている。

経済建設から戻った軍事重視路線

 金正恩は19年3月の「代議員選挙」に出ておらず、代議員ではなくなった。そのため最高人民会議はたまに出て演説する場という位置付けだ。今回は、19年4月12日(第14期第1回会議2日目会議)、21年9月29日(第14期第5回会議2日目会議)に続く3回目の施政演説となった。

 印象的だったのは、演説を「親愛する代議員同志たち! 尊敬する常任委員長同志、そして最高人民会議副議長同志! 傍聴者のみなさん!」と切り出したことだ。部下に対して「尊敬する」との敬称を付したのは今回が初めてだと思われる。

 金正恩が絶対的権力者として君臨することに変わりはないが、立法府に対する敬意の表明はグローバル・スタンダードを意識したものかもしれない。金正恩は、あくまでも「北朝鮮なりの解釈」ではあるもののグローバル・スタンダードを気にするのである。

 演説内容での変化は軍事重視への回帰だろう。今回は「国家防衛力建設を最優先し、改めて重大視」することと、軍事力強化が「第1革命課業」であると掲げた。13年春に経済建設と核兵器開発を並行して進める「新たな並進路線」を掲げた後、シンガポール米朝首脳会談を前にした18年4月に「経済建設に総集中する路線」に転換していた。

 対話路線の破綻を受けて再び、そして以前よりもさらに軍事を重視した路線に回帰したのだ。経済が二の次であること、引き続き国民に犠牲を強いることを明示したと言える。

 経済建設については主に「食糧問題、人民消費品の問題をはじめとする人民生活の向上」に力点を置くと表明したものの、少なくとも当分の間、国民が厳しい生活状況から抜け出せる見通しは立っていない。

  
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