2024年4月25日(木)

補講 北朝鮮入門

2022年10月11日

 本音では核実験に踏み切りたいものの、北朝鮮は新型コロナウイルス対策でも中国への依存を強めており、習近平の顔に泥を塗ることができる状況にない。

 だが今年5月に発足した韓国の尹錫悦政権は、北朝鮮への対決姿勢を見せる。今年夏の米韓合同軍事演習では4年ぶりに野外機動訓練が復活し、9月には米原子力空母「ロナルド・レーガン」が5年ぶりに釜山港へ入った。北朝鮮はさまざまなミサイル発射を繰り返して反発を示しているが、今回の核ドクトリン発表のタイミングはこうした米韓への対抗策とも考えられる。

 こうして考えるなら、北朝鮮の核実験は当面ないとも考えられる。ただ北朝鮮は、5年ぶりに日本上空を通過した中距離弾道ミサイルを含む一連のミサイル発射は米韓による挑発への対応だという主張を強めている。

 国防省報道官は10月8日、ミサイル発射について「米国と南朝鮮(韓国)の極めて挑発的で威嚇的な合同軍事演習にわが軍が正当な反応を見せた」と述べた。核実験についても米韓側に責任を押し付ける一方的な論理を主張して、強行する可能性は常に残る。最終的には金正恩の決断次第である。

米韓の攻撃なくとも核使用する可能性を明示

 さて、新たな核ドクトリンの内容について検討したい。注目されるのは法令の「3.核兵力に対する指揮統制」である。金正恩が兼任する国務委員長が「核兵器に関連したすべての決定権を持つ」と明確にするとともに、金正恩を補佐する「国家核兵力指揮機構」なる新組織の存在が明らかにされた。ただしメンバーなど詳細は不明である。

 この項では「国家核兵力に対する指揮統制体系が敵対勢力の攻撃で危険にさらされる場合、事前に決定された作戦方案に従って挑発の原点と指揮部をはじめとする敵対勢力を壊滅させるための核打撃が自動的に即時に断行される」と定められた。さらに「6.核兵器の使用条件」という項では、「国家指導部と国家核兵器指揮機構に対する敵対勢力の核及び非核攻撃が敢行されたり、差し迫ったりしたと判断される場合」には核兵器を使用できると明文化した。相手国からの攻撃がなくとも核兵器を使用する可能性を明示したものだ。

 それでも「5.核兵器の使用原則」には、「他の核兵器保有国と野合して朝鮮民主主主義人民共和国に反対する侵略や攻撃行為に加担しない限り」は非核保有国に対して核兵器を使わないし、核の脅しもしないと盛り込んだ。これは13年ドクトリンにもあった項目で、米韓の間にくさびを打ち込みたいという狙いがうかがえる。

 今回の法令化について金正恩は、「国家防衛手段としての戦争抑止力を法的に持つようになったことを内外に宣布する特記すべき事変」だと位置づけた。米韓を牽制するとともに、経済的苦境に陥っている国民になおいっそうの団結を求める効果を狙ったと言える。


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