2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年1月30日

北朝鮮ドローンは偵察のためだけなのか

北朝鮮は韓国上空にドローンを飛ばす目的について、個別具体的に言及してないが、いわゆる国防発展5ヵ年計画から、その目的を見出すことができる。

 国防発展5ヵ年計画とは、21年1月の朝鮮労働党第8回大会で採択されたもので、核技術の更なる高度化、超大型核弾頭の生産の持続的な推進など7つの核抑止力を構築するための目標のほか、「近い期間内の軍事偵察衛星の運用」「500キロメートル前方の縦深まで偵察可能な無人偵察機をはじめとする諸偵察手段の開発」を定めている。このことから、北朝鮮がドローン開発を重要な国防目標としていることが分かるだろう。

 ドローン事件1週間前の12月19日、北朝鮮の労働新聞は、前日行った準中距離弾道ミサイル2発の発射について、「偵察衛星の実験」と報じるとともに、実験用偵察衛星が撮影したソウルと仁川の写真を公開した。ただし、公開された写真は白黒で、解像度も低いため、韓国は「評価できないほど粗悪な水準」と酷評している。

 この酷評が北朝鮮のプライドを刺激してドローン事件に繋がった可能性は否定できないだろう。北朝鮮は今年4月までに軍事偵察衛星1号機の準備を終えるとしているが、ドローンについては少なくとも8年以上の運用実績があり、韓国の中枢に接近して偵察することができる実力を備えている。よって、偵察衛星を酷評した韓国に一泡吹かせるために、あえて大統領執務室を撮影するためにドローンを飛ばした可能性が考えられる。

 このように北朝鮮はドローンによる高い偵察技術を持っているのだが、ドローンを開発する目的が本当に偵察のためなのかという点には疑問がある。これには韓国も同じことを考えているようで、韓国国防研究院(KIDA)が18年に公表した報告書「北朝鮮無人機の能力評価」には、「北朝鮮ドローンが100グラム程度の炭疽菌を大統領室や国防部がある龍山に散布すれば戦争遂行能力は深刻な打撃を受ける」と記載している。

 北朝鮮は炭疽菌のほか天然痘ウイルスやボツリヌス菌など13種類の生物兵器用病原菌を保有していると指摘されている。仮に、北朝鮮ドローン群が10数キログラムの生物兵器をソウル上空から散布したとすれば、史上初めて生物兵器で首都が壊滅するという地獄絵が描かれることになるのだ。

世界の最右翼に位置する韓国のドローン開発

 話を22年末に戻そう。ドローン事件を受けた韓国の反応は、迅速かつ先進的だった。尹錫悦大統領は北朝鮮ドローンが再び領空侵犯した場合、18年に締結した南北軍事合意の効力停止の検討を指示したほか、韓国軍に「合同ドローン司令部」を設置するように命じた。そして、尹大統領は事件3日後の12月29日、韓国国防科学研究所(ADD)を訪問し、先端ドローン開発の現状を視察した。

 実は、韓国軍のドローン戦力化の動きは世界でも最右翼に位置しており、18年9月には、陸軍に「ドローンボット戦闘団」(ドローン+ロボットの意味)を創設し、産業界をも巻き込み研究開発を進めていた。尹大統領が命じた合同ドローン司令部は、この部隊とは別で、韓国軍が保有する予定の中高度無人機や海上作戦用無人機、防空網制圧無人機、遠距離精密打撃無人機、無人戦闘機(UCAV)などを統合して運用する部隊となる。

 ここから、韓国軍が近い将来運用することになるドローンについて見ていきたい。

 1機目は、今年1月から運用される、イスラエルの軍事産業、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)製の自爆型ドローン「ロテムL」だ。ロテムLは重量6キログラムとリュックサックに入れて持ち運びができ、作戦範囲は10キロメートルで、手りゅう弾2個分の威力を持つ1.2キログラムの弾頭を搭載して30分の作戦飛行が可能。北朝鮮ドローンに比べ、飛行距離も短く、ペイロードも少ないが、ロテムLは有事に金正恩氏を含む北朝鮮指導部を暗殺する「斬首作戦」に特化して運用される見通しだ。

斬首作戦に使われる自爆型ドローン「ロテムL」(イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ)

 2機目は、ADDが開発を進める無尾翼ステルスドローン「カオリX」だ。米空軍のステルス爆撃機「B-2」を彷彿させる姿から、カオリ(韓国語でエイのこと)と命名された。1999年に開発がスタートしたカオリXは、AIを搭載し、有人戦闘機との協同作戦を目標にしており、2015年の初飛行を経て、現在はカオリX2の開発に以降している。27年に予定されている実戦配備後は、有人機1機とカオリ型ドローン3〜4機の編隊で偵察や精密爆撃の任務にあたるという。

韓国が独自開発するKF-21と編隊を組むカオリのCG(韓国・防衛産業庁)

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