2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月16日

grynold/gettyimages

 1月25日付英フィナンシャル・タイムズ紙の解説記事‘West grapples with dilemma over Iran nuclear talks’は、西側とイランとの関係は緊張しており、核合意は宙ぶらりんの状態となっているが、その間もイランは核開発を進め、誤解に基づくエスカレーションの危険性があるので、今こそ、イランに対して「最大限の圧力」を掛ける他ない、と分析している。要旨は次の通り。

 イランが反政府デモを弾圧し、ウクライナを侵略しているロシアにドローンを売っていることから、西側諸国はイランに対する批判を強め、米国、欧州連合(EU)および英国は何十人ものイラン政府要人を制裁しているが、その一方で瀕死のイラン核合意を救うための外交交渉を行う用意があるとしている。

 これは、彼らが交渉の妥結に楽観的だからではなく、西側諸国がイランの攻撃的な核開発計画を阻止する手立てが限られているというジレンマに直面しているからだ。西側外交筋によれば、西側は自分達が核合意を諦めれば、合意の失敗は西側の責任であるとイラン側が主張し、さらに、イランとの交渉の手立てがなくなることでより大きな危機の引き金となることを恐れている。

 他のオプションとして、より限定的な合意の追求、軍事行動、トランプ前政権の課したイランに対する「最大限の圧力」がある。しかし、最後の「最大限の圧力」は、域内の緊張を高めた。

 EUが仲介した米国とイランの間接交渉は1年以上続いたが、まとまらなかった。米国政府関係者は、核合意は、「冷凍保存中」と言い、専門家は米国とイランは、双方が「レッドライン」を越すことなく、「交渉もなく、危機もない」という現状に固執していると述べているが、この様な状況は長続きせず、どちらか一方の計算違いでエスカレーションを招くリスクがあると述べている。

 ある西側外交官は、「我々が何もしなければイランは、濃縮90%のウランの獲得にますます近づき、誤解とエスカレーションのリスクがある」としている。

 英国やEUがイランの革命防衛隊(IRGC)をテロ組織として認定するという話もあるが、そうはならないであろう。イラン政府関係者は、そのようなことがあれば報復すると宣言しており、専門家によれば外交関係断絶のリスクがある。

 EUの高官は、「誰もこのような形(IRGCのテロ組織認定)でイラン核合意(JCPOA)を終わらせたくない」とし、「我々に残されているのは、最大限の圧力であり、前回は、最大限の圧力が効いたことを知っている」と述べている。

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 ロシアのウクライナ侵略でイランの核開発問題は国際場裏では忘れさられているが、この記事が指摘するように問題が解決したり、解決に向かったりしている訳では全くない。

 むしろ、1月25日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、イランは、既に濃度60%の濃縮ウランを70キロと濃度20%の濃縮ウランを1000キロ備蓄済みで、これは核兵器数発分に相当するとしており、イランの核開発問題は、一層、危機的な状況となっている。

 なお、核兵器の製造には、濃度90%の濃縮ウランが15キロ程度必要だと言われているが、濃度60%の濃縮ウランを90%に濃縮するためには数週間で済むとの由である。


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