2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月16日

 イランがウラン濃縮度を90%に引き上げないのは、まだ、起爆装置の開発が終わっていないためかもしれない。イランが執拗にIAEAによる調査の中止を求めている未申告の核物質の問題は、起爆装置に関連しているとの見方がある。

 既にバイデン大統領が、昨年11月に「(核合意は)既に死に体だ」と発言しているが、それでも欧米が核合意を公式に「断念した」と言わないのは、これも記事の指摘通り、核合意崩壊の責任を負いたくないからであるのは間違いない。

 さらに、米国の本音は、「責任論」以上に、「米国は、ロシアのウクライナ侵攻とインド・太平洋地域での中国の野心により、既に手一杯になっており、中東方面への関与は最小限にしたい」というところであろう。それゆえ昨年来、核合意再開交渉は、「核合意に至る見通しは殆ど無いが、さりとて交渉が完全に死んだわけではない」という宙ぶらりんの状態となっている。

米国の無関心は結果的に高くつく

 この曖昧な状況を利用してイランは、ますます、核開発を進めている。一方、欧州やインド太平洋の問題に忙殺されている米国は、イランが核開発を続けて、ますます危険な状況になっていながら「見て見ぬふり」している。

 しかし、このような米国の無関心、不作為が、最終的にイランの核武装を許してしまう恐れがあるだけでなく、緊張が続き、不測の事態と偶発的衝突のリスクが続くという問題がある。

 米国の「見て見ぬふり」は、結局、米国にとり高く付く可能性が高い。

 上記の記事は、イランの核開発を制約する手段として「最大限の圧力」を示唆しているが、非軍事面で現状以上にイランに実質的な圧力を加える方法があるとは思われない。

 過去の安保理決議に基づく国際的な対イラン経済制裁の復活が念頭にあるかも知れないが、常任理事国のロシアがイランのドローンに依存し、中国がイランから日量100万バレルの原油を輸入しているような状況で、このような安保理決議が通ることはあり得ない。

 西側有志国による制裁かもしれないが、イランとの大口貿易相手であるロシア、中国、インドは参加しないであろう。

 何よりも、既にトランプ前米政権による「最大限の圧力」で日本を含めた西側諸国の企業は、イランとの取引で米国から制裁されることを恐れてイランとのビジネスを絶ち、西側の対イラン貿易は壊滅的な状況になっているので、制裁回避の対策を進歩させたイランに実質的な圧力を加えられるとは思われない。

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