サイバー空間の権力論

2013年7月10日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

 香港滞在時にリークを行ったスノーデン氏についても簡単に触れておきたい。スノーデン氏は1983年ノースカロライナ州生まれ。2004年に米軍に入隊するも、事故で除名される。当初はイラクへの派遣を志願しており、イラクを解放するという希望を持っていた。

 その後NSAのスカウトにより大学の警備員をはじめた同氏は、2007年、CIAにセキュリティ関連の仕事に就き、2008年にはNSAと提携する民間企業と契約。以後世界中を飛び回ることとなる。インタビューの中で彼は、この時期に世界中のコンピュータをハッキングしたことや、各国の通信を傍受したと述べている。

 自らの生活を快適で待遇もよかったと述べているスノーデン氏はなぜ実名で告発したのか。その理由の一つに、彼の正義感が挙げられるだろう。上述のようにスノーデン氏はイラクの解放を信じていたが、CIAやNSAの仕事をこなす中で、アメリカによる外国へのハッキングや通信傍受の実態を知り、幻滅したようである。とりわけスノーデン氏は、オバマ政権がその民主的なイメージとは裏腹に、政権就任後にサイバー空間における監視や規制、取締りを強化しており、プライバシーや基本的人権が守られていないことを批判している。

 これは、ウィキリークスにイラク戦争関連の情報を提供し逮捕された、ブラッドリー・マニング上等兵とも共通する。マニング氏もまた、正義感からイラク戦争に従軍したにもかかわらず、そこでアメリカの不正を目の当たりにしたことで、情報をリークする決意をしたからだ。

 スノーデン氏は香港を出発後、原稿執筆時点ではロシアの空港のトランジットエリアに滞在している(というよりも、身動きが取れない状態にある)。アメリカからスパイ活動取締法違反容疑等で訴追され、また旅券も失効させられているスノーデン氏は、現在亡命申請を数十カ国にしており、7月8日時点ではベネズエラ、ニカラグア、ボリビアが亡命を受け入れる意向を示している(ロシアには亡命申請をしたものの、後に亡命申請自体を取り消している)。

一人の告発が世界を動かす
国際政治に及ぼした影響

 今回の事件は、改めて情報がどれだけ力を持つかを世界に証明した。その証拠に、国際舞台においても、事件をめぐって衝突が生じている。

 スノーデン氏がロシアに到着後、当初アメリカは彼の身柄を引き渡すようロシア政府に要請した。しかしプーチン大統領は、米露間に犯罪者引き渡し条約がないことから求めを拒否するなど、冷戦後あまり見られることのなかった対立構造を鮮明にしている。その後ロシアはやや態度を軟化させているが、スノーデン氏を介して政治的な駆け引きがなされていると推測される。

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