2024年12月27日(金)

サイバー空間の権力論

2013年7月10日

 他にもアメリカと対立している国に、エクアドルが挙げられる。スノーデン氏に関しては、実名で名乗り出た頃からウィキリークスが彼の支援を宣言していた。ウィキリークスは弁護士の紹介や亡命先に関するアドバイスを行なっているが、代表のジュリアン・アサンジが亡命を申請した国こそが、反米色を打ち出すエクアドルであった。エクアドルははやくからスノーデン氏が亡命した際には受け入れを表明していたが、こちらもアメリカから貿易に関する圧力がかけられた。

 すでにアメリカの議会では、エクアドルが亡命を受け入れれば、現在の貿易上の優遇措置を破棄するべきとの声が挙がっている。これを受けてエクアドル政府もスノーデン氏の受け入れがすぐには難しいとの考えを表明するなど、慎重な姿勢を示している。

 さらに、アメリカ政府に以前から国家ぐるみのハッキング疑惑を名指しで非難されていた中国は、ここぞとばかりにアメリカを批判している。従来自らをサイバー空間の被害者だと主張していたアメリカにとって、中国に反撃の機会を与えてしまったことは、外交上手痛い打撃であろう。アメリカはこうして、国内的にも国外的にも、事件の対応に追われている。

 リークはPRISMだけにとどまらない。その後もスノーデン氏の告発情報を基に、アメリカが日本を含む38の在米大使館、代表部の通信を盗聴・傍受したという暴露が行われている。これに端を発し、世界中からアメリカへの問い合わせがあった上に、7月8日からはじまったEUと米国の自由貿易協定(FTA)締結交渉も、当初は欧州議会から交渉を延期すべしとの主張がなされており、今後も影響を与えることが予想される(だが原稿執筆時にスノーデン氏の新たな告発があり、欧州各国が諜報活動でアメリカと協定を結んでいるという報道もされている。事件の背後にある国際政治上の複雑な関係が見え隠れする)

 このように、一人の告発者を巡って世界中の外交・貿易にまで事が及ぶこと自体、今回の事件がどれほど広範な影響を与えているかを物語っている。

情報の自由と安全保障
我々は何に合意すべきなのか

 本来であれば、PRISMや通信傍受の実態は誰にも知られることがなかった。他国の政府も、アメリカほどの規模ではないにしても、同様のことを行っている可能性は十分にあり、現にそうした報道も一部なされている。我々が知らぬ間に、我々の生活が監視されていることは事実だろう。


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