だが、ジャージー牛乳を収益に結び付けるには自分たちで売る必要がある。そのためには「販路」がいる。そこで観光客も立ち寄る「道の駅」などに置いてもらっている。地元の人たちにも人気だ。フレッシュさを大事にするため、次の配送時に売れ残っているものは賞味期限内でも回収する。それを加工用の原料に回す「循環」を確立することで、無駄を出さず、結果的にコストを下げることを狙っている。
もちろん、インターネットを使った直販も大きな武器だ。プレミアムジャージー牛乳は900ミリリットルボトルが2本で1889円(税別)と高価だが、こだわりの逸品を求める首都圏在住のお得意さんが定期購入してくれるようになった。
「生シェイク祭り」で
進める仲間づくり
もっとも、すべて自前で製品づくりを行うのは難しい。直売所を多店舗展開する力もない。そこで考えたのが、地元のさまざまなビジネスとの連携だ。例えば、チーズ作りに乗り出す酪農家も多いが、規制も厳しく設備投資も必要になる。だが、周辺にはシェフ自らが手作りチーズを作りたいこだわりのレストランがある。須藤牧場はそうしたシェフに最高のミルクを提供することで、地域全体の活性化につながると考えることにしたのだ。「餅は餅屋の言葉通りです」と健太さんは笑う。そうやって地域全体で南房総産の良質なミルクの消費が増えれば、結果的に地域に酪農を残していけることになる。
その健太さんの発想が花開いたのが「生シェイク祭り」というイベントだ。房総エリアの飲食店に声をかけ、須藤牧場の牛乳を使ったさまざまな生シェイクをお店のオリジナルとして出してもらう仕掛けを作ったのだ。房総産のイチゴを使った生シェイクや、地元の酒蔵の麹を使ったもの、お米屋さんが作った「おこめ生シェイク」などなど。リゾート地らしいお洒落なシェイクも数多く生み出された。インターネット上に特設サイトを設けて、それぞれの生シェイクを写真入りで紹介。お店のサイトにもリンクを貼った。この取り組みには何と63店舗が参加した。
酪農を残すためにもう一つ取り組んでいることがある。須藤牧場に全国の学生を受け入れ、教育活動を行っているのだ。「酪農教育ファーム」の認証も得た。実は、健太さんの母が教職免許を持っており、酪農の現場を知ることを通じて子どもたちに「生きる力」を伝えることができる、と考えたのだ。
小中高校生向けに乳しぼり体験や子牛のブラッシング、バター作りなどを体験できるコースを設定した。子どもたちに直接、酪農という仕事の魅力なども語っている。美味しいソフトクリームを食べて子どもたちは大喜びで帰っていく。酪農を身近に感じてもらうことで、南房総の酪農という文化が保たれていくに違いないと考えている。
江戸時代から続く房総の酪農を自分の代で終わらせるわけにはいかない─。そんな健太さんの思いが新たなビジネスのアイデアを生んでいく。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa