久松:わかるわかる。
小川:自分がおいしいと思ったものを作って、それが伝わらないお客さんには「この味の違いがわからないなんて」と思っていたんです。それが今はいろいろな人がいて、その人が食べたいものを作りたいと思うようになりました。「この最高に美味しいトマトを、この最高の作り方で作るんだ」とばかり思っていたんですけど、いまはいろいろなモノを作りながら、逆に「マズいトマトはないのか?」と探すようになりました。
久松:えっ?
小川:マズくても、きっとなにか長所があるだろう、と。たとえば白トマトって、味だけなら赤いトマトに負けると思うんですよ。でもその白トマトが、なにかの料理で何かの食材を最高に引き立てるかもしれない。個性があればいいんじゃないか。いろいろな農家がいたほうがいいのと同じで、いろいろな野菜があってもいいのかな、と。まあ、やり過ぎると経営的に厳しくなるんで、絞らないといけませんが。
久松:「絞らないと」って、全然絞ってないじゃない(笑)。
小川:レストランさんはメニューに「ファーム小川の××」と表示してくれるわけじゃない。でもお客さんが「なにこれ? すごく美味しい」となったところで「それは柏のファーム小川さんが作っている野菜なんです」と説明してもらえると、グッと価値が上がる。まずかったら「どこの?」とは聞かないですよね(笑)。
先入観なく食べて「美味しい」と思ってくれて、さらにレストランが「それは小川さんが今朝収穫した野菜なんですよ」と美味しさの理由をしっかりと伝えてくれたら、うちとしてはありがたい。相乗効果になりますよね。
久松:わかります。肉や魚は冷凍技術が進化しているから、金出せばいいモノが手に入る。逆に言えば、飲食店も差別化する手がなくなっている。野菜にはその余地があるんですけど、野菜って商圏が狭いじゃないですか。
ぼくはよく思うんですけど、肉やスイーツにはどこかセクシーな艶っぽさ、惹きつけるものがあるじゃないですか。ぼくは下品に「エロい」って表現しちゃうんだけど(笑)、野菜にはそこまで強烈な誘引は、なかなかない。野菜中心のレストランって、美味しくてもなんだかマジメっぽいじゃない。肉やスイーツに勝てる表現がなかなか見つからない。
でも変な野菜のバリエーションがあると、グッとお客さんを掴む。小川さんが言っていたような褒められ方は、お店としてもすごく嬉しいんですよ。「またこの料理食べさせてよ」とお客さんが帰って行ったら、小川さんの野菜を使う意味が強くなる。ぼくたちはそういう価値作りをもっと露骨にやっていかなければならないのだと思っています。