2024年11月22日(金)

うつ病蔓延時代への処方箋

2013年8月15日

 研究の対象となった年齢は10代後半から20代半ばまでの若年層のデータですが、日本の現状に当てはまるでしょう。

 喪失の根底には、経済成長・年功序列・右肩上がりなど好景気時代の守られた社会状況が無くなってしまったことがあげられます。屈辱では、勝ち組、負け組などといわれる現象があります。負け組にすればたまったものではない。給料が上がらない状態で我慢していること、生産性向上のため社内に持ち込まれた競争など、屈辱的な想いをする人が増えています。

 罠にかかったような身動きが取れない面では、30歳代男性にうつが増えている原因の大きな要素ではないかと思います。社会、家庭の両面で責任がのしかかってくる中で、好きなこともできずに自分の可能性を委縮させていく。どこにも行き場がない蟻地獄だと感じてしまう。このような社会的、経済的な現象が、職場を中心にうつを増やしていると考えています。

「おもいやり」はうつ病の解毒剤

 ―― 統計でみると、うつ病は中高年女性に多いのですが、これは身近な人を失うことをきっかけにしているケースが多いと聞きます。

岩壁:人は老いて死を迎えるのは自然なことですが、受け入れられなくなる場合があります。50歳代になると親、兄弟姉妹、親しい知人などの死に直面することがあります。喪失があると、近くにいる者が手をさしのべて絆を深め合うことで悲しみを乗り切るのが人としての素直な行動です。しかし、親を亡くして悲しむ妻に夫が「そんなに葬式代がかかるのか」などと不用意な発言をする。これは絆を深めるどころか裏切りとして感じとらえてしまう。親を亡くして心に余裕がない状態で傷つけられる。ここからうつになるケースがみられます。人を支える絆が、どこかで欠けてしまったケースです。

 そんなに傷つけるような言葉ではないと思っていても、ダウン寸前となっている妻には軽いジャブが決定打になるのです。これは職場でも同じようなことがいえます。何気ない一言でも、相手の状態をみて発言することが大切です。言うほうも、言われて傷つく方も共に余裕がない状態だと思います。そういう現象を引き起こしているのが冒頭に述べた経済環境に起因していると思います。

 ―― 優しい言葉、思いやりが大事だということですね。企業の管理職の人に聞くと、褒めて育てるような手法の理屈はわかるが、長続きしないと言います。思いやりの心を持とうと努力しても、キレてしまうことがある。


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