精神医学はアメリカ主導だ。日本の精神科医は、診断基準として米精神学会が定めたDSM(診断と統計のマニュアル)を使用する。アメリカで基準が改定されれば、日本も合せる。精神医学の先進国であるアメリカの流れは、日本にも影響を与える。では、アメリカのメンタル事情は、どのような状況なのか。うつ病の日米比較を探ってみたい。アメリカで足掛け15年間にわたりメンタル分野に携わる市川佳居・ピースマインド・イープ取締役副社長に聞いた。
市川 佳居(いちかわ・かおる)
神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。米国メリーランド大学(ソーシャルワーク修士)修了。ロサンゼルス市でサイコセラピストとして活動後、モトローラEAPディレクターとしてアジア12カ国でEAP立ち上げの業務に携わる。1998年、日本EAP協会を設立。2002年EAPサービス事業者のイープを設立。2011年4月ピースマインド社と統合し現職。カリフォルニア州認定臨床ソーシャルワーカー(LCSW)、国際EAPコンサルタント(CEAP)、国際EAP研究センター長。医学博士(杏林大学医学部)、臨床心理士。
うつ病の発症率は日本増加、米は横ばい
―― 宗教意識、文化・風習、ビジネス環境など、日米の差は大きいと思います。当然、うつ病などメンタルヘルスの取り組みも違うはず。アメリカの状況を教えてください。
市川:まず、データから見ていきたいのですが、アメリカのうつ病患者数などの統計はCDC(疾病予防管理センター)とNIH(国立衛生研究所)の関連機関であるNIMH(国立精神衛生研究所)から得ることができます。CDCは州ごとに分けた2006年から08年のうつ病発症率を発表しています。これによると発症率の少ない州は4.8%~7%、多い州は10.4%~15%にも達しています。平均すると8%~10%がうつ病の発症率といえます。
日本は15人に1人とみられており約7%程度ですので、アメリカに比べてみると低いものの同水準。患者数は人口の差がありますので日本の倍以上になります。
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NIMHの「成人のうつ病発症率の推移」をみると、徐々に減少傾向となっています(表参照)。08年の統計では6.4%ですので、これだけみると日本の方が発症率は高くなってしまいます。(CDCのデータとは統計の仕方が異なるようで一致しない)
日本では毎年、うつ病患者数が増えていますが、表で見る限りアメリカは鈍化傾向にあります。ただ、CDC、NIMHの双方のデータは08年が最新であり、この年に起きたリーマンショック以降の状況がどのように影響を与えているのかは、現時点では判断できません。あえて言えば日本のうつ病発症率は増加傾向、アメリカは横ばいだと思います。