岩壁:人間だから失敗は仕方ないことだと、優しく暖かく受け入れていくことが重要です。人の性格は千差万別ですから、思いやりを持てる人と持てない人がいるのは当然です。しかし、この気持ちを持つことがうつで苦しむ人に有効です。これをセルフコンパッションと言います。おもいやりを持つことです。
学習で身につく感情調整力
―― 気分が落ち込んでいるとき、コミュニケーションの上手な人と話すとホッとする時があります。近くに何でも話せる人がいることは、うつ予防の第一歩ではと私は思います。誰とでも上手に話ができれば、うつにはなりにくいはずだと考えてしまうのですが、うつ傾向の人はコミュニケーションの手法に問題があるのでしょうか。周囲と交わるのが上手くないから孤立してしまうのではないか、という気がしてなりません。
岩壁:コミュニケーションが下手だから、うつの傾向性があるとは一概に言い切れません。カウンセリングをしていると、自分の世界を表現することはできるが、すぐにネガティブな方向へ行ってしまう人がいます。この場合は、コミュニケーションをしようとすると次第に成立しにくくなります。ただ、多くの場合は、他者とのコミュニケーションよりも感情の調整に問題があると考えています。
ビジネスマンは成功するためには自分の感情をコントロールしなければいけない、と昔は言われていました。この場合は感情を抑えるという意味で使われています。しかし、調整はエアコンの設定温度を上げたり下げたりするように複雑です。何らかの事象に対し、感情を強めたり弱めたりすることです。
会社で上司から怒られた時、誰もが落ち込みますが、そんな時は少し気持ちを切り替えて人生を俯瞰して今の自分を冷静に見るとか、母親に電話して気持ちを落ち着ける、スーパー銭湯に行き体を休めるなど、感情を調整することで立ち直れる。ところがうつ症状に陥りやすい人は、このような感情調整がうまくできない、方法が適応的ではない。歪をもちやすいといえます。