米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙の6月16日付の社説‘Biden’s New Iran Nuclear Courtship’が、報じられているバイデン政権とイランとの秘密交渉につき、愕然とするほどイランに譲歩しすぎであり、文書化されない非公式の合意では、イラン側が合意を履行するか不確かとなると指摘、バイデン大統領は、議会の批准を回避するために文書化せず、自己の再選がかかっている来年の大統領選挙まで時間稼ぎをしていると批判している。要旨は次の通り。
バイデン政権はイラン核合意よりも長期間かつ強力なイラン核合意を約束していたが、米国とイスラエルの報道によれば、愕然とするような譲歩をしようとしている。つまり、バイデン政権は、イランが核兵器保有国にはならないという内容の文書化されない「合意」をイランとしようとしている。
イランは、既に核爆弾数個分の濃度60%の濃縮ウランを備蓄しており、直ぐに核兵器級の濃度に高めることが可能である。しかし、米側は、イランに対して濃縮ウランの備蓄と濃度を減らすことを求めていない。報道によれば、イランが60%以上にウランの濃縮度を高めない見返りにイランの凍結資産を解除し、さらに、米国は追加的な制裁を行わないこと、国際原子力機関(IAEA)でイランを非難しないことが議論されている模様である。
技術的な詰めを伴わないこのような文書化されない合意によって、イランが濃縮活動を監視するモニターの再設置、監視データのIAEAへの提供、さらに、強化されたIAEAの査察を受け入れるかどうか、懐疑的にならざるを得ない。
米国は、凍結されていたイラクのイランに対する27.6億ドルの天然ガス輸入代金と電気代金の支払いに対する凍結解除を行った。イランは、この数十億ドルの資金を革命防衛隊の活動資金や中東での帝国主義的な野望のために使うであろう。イラン側は、複数の米国人人質を解放するために追加的に数十億ドルの資金の凍結解除も求めている。
イラン側は、ウラン濃縮の濃度を高め続け、地下の核施設に対する攻撃を防ぐために施設を強化し、恐らく核兵器を開発し続けながら数百億ドルの資金を手に入れることになる。いずれ、この文書化されない「合意」が破綻する時、イランは、より強い立場で国際社会と対峙するであろう。
この非公式な取引は、イランの核兵器保有の野心を食い止めるものではなく、イラン側の野心を2024年の米大統領選挙の後まで先送りするものに過ぎない。バイデンは再選のために、イランの核開発問題を安全保障上の危機にしたくない。しかし、イラン側は米国とその同盟国に対するいやがらせを止めないであろう。この最新のイランに対する宥和努力は、2015年のイラン核合意以上に機能しないであろう。
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このWSJ紙の論説も、他の多くの論説と同様、非公式の文書化しない合意に対して批判的である。2015年の核合意ではイランは約3%の濃縮しか認められていなかったにもかかわらず、その20倍の濃度の濃縮ウランの保持が認められ、凍結資産の解除が認められるなどの利益を得る一方で、その見返りとして米国が得るのは米国人人質の解放程度だけだから批判は当然であろう。