トランプ政権時の国家安全保障問題担当補佐官であったジョン・ボルトンが、6月6日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘Iran Exploits Biden’s Fecklessness’で、バイデン政権下でイランに対する制裁は形骸化しており、米国は湾岸のアラブ産油国やイスラエルを見捨てているが、手遅れになる前にイランのイスラム革命体制を崩壊させなければならず、高齢のハメネイ最高指導者の死去がそのチャンスであり、米国は今から準備すべきである、と論じている。要旨は次の通り。
イランは米国が課した政治的、経済的な圧力を着実に骨抜きにしている。イランが過去に例のないレベルでの中国とロシアとの関係を強化する一方で、バイデン大統領は中東の同盟国に対して見下した態度を取るばかりでなく、2015年のイラン核合意を再開出来ると思い込んで対イラン制裁を緩めている。われわれは、中東での地政学的な合従連衡の組み直しと不安定化、さらに、世界的なテロの脅威と核兵器の拡散に直面している。
米国がイランの核武装を阻止する明白な決意を欠いていることから、イスラエルによるイランの核施設に対する武力行使の可能性が高まっている。それを止めるためには、イランの神権政治体制を崩壊させるしかない。米国政府は、最低限、84歳のハメネイ最高指導者が死去する際に起きる内政の混乱に注目するべきである。最高指導者の死去は、イラン国民がイスラム革命体制を倒し、抑圧を終わらせる好機となろう。
バイデン政権は、ペルシャ湾岸のアラブ諸国とイスラエルを見捨て、彼らの敵であるイランを力づけている。
バイデン政権は、イラン核合意を再開することに望みを託している。イランに囚われている米国人人質の解放を含む「部分合意」ですら、数十億ドルの凍結資産を解除し、テロの継続と核兵器の追及を資金的に支援することとなろう。
中東における米国の同盟国は、イランとの関係改善という「保険」を掛け始めており、米国は手遅れになる前にこれらの諸国との溝を埋めるべきである。シリアでも、イランはロシアと協力してシリア領内に駐留する米軍を攻撃して撤退に追い込もうとしている。
さらに、イランは核開発問題に関して国際原子力機関(IAEA)の査察を妨害し続けているが、より長い目で見て問題なのは、中国の外交攻勢で米国と中東の主要な同盟国との間の亀裂が広がることが持つグローバルな意味である。中国とオマーンの仲介によるサウジとイランの関係正常でバイデン政権は醜態を晒した。
これら一連の出来事は米国と主要な同盟国の間に戦略的な楔を打ち込んでいる。バイデン政権は、ハメネイ師が神に召された後に起きることに備えるべきである。ハメネイ師が死去する前に計画を立て始めなければチャンスを逸する。イランで3人目の最高指導者が任命されないようにするべきである。
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上記の寄稿には幾つか重要なポイントが含まれている。まず、米国はイランが核開発を制限する代わりに日量100万バレルの原油輸出を認める合意が近づいているという報道が出ていたが、6月8日、米政府はこれを否定した。しかし、バイデン政権が米国人人質とイランの凍結資産の一部解除を取引する何らかの秘密交渉が行われているのは間違いないだろう。