2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月19日

(Oleksii Liskonih/Muhammad Rayhan Haripriatna/gettyimages)

 イスラエルのベン・アミ元外相が、非営利の言論サイト「プロジェクト・シンジケート」に4月17日付で掲載された論説‘The Middle East’s Marriages of Convenience’において、アラブ諸国ではサウジアラビアのイランとの関係回復のような新たな合従連衡が起きているが、これは、アラブ諸国の体制の存続のための戦略的な変化に対応した現実主義的な短期的取引であると論じ、他方、イスラエルの現政権は、引き続き、イランとの「影の戦争」を続けるなどこの動きに対応出来ていないと批判している。要旨は次の通り。

 米国の関心が低下する中、中東地域では打算的な合従連衡が起きている。この合従連衡は、戦略的な変化に対応した現実主義的な短期的な取引からなっている。スンニ派とシーア派の対立という宗教的要素より、地政学的な利益と体制の存続の方が重視されている。

 3月のサウジとイランとの外交関係再開は、現実主義的な対外政策の驚嘆すべき例である。中国の仲介が喧伝されているが、このような変化をもたらした理屈は明確である。イランは、経済と社会の危機を救うことに必死だからであり、サウジは、核兵器保有が間近に迫るイランとの緊張緩和が必要だったためである。さらに、サウジは、イエメンでの戦争を終わらせたかった。和平により、サウジは原油と石油化学製品に依存する経済を転換させることに集中することが可能になる。貿易に依存するサウジにとり平和と安全が唯一、繁栄への道だ。

 サウジとイランとの関係回復は、より大きな地政学的な変化への対応の一部に過ぎない。去年、アラブ首長国連邦(UAE)もイランとの外交関係を再開し、バーレーンもそれに続くであろう。トルコは、イスラエルとシリアの双方とコンタクトしており、アラブ諸国は、シリアのアラブ世界への復帰を認めようとしている(注:5月7日にシリアはアラブ連盟に復帰)。

 中東における打算的な合従連衡の特徴は、関係者の核心的な利益は変える必要は無いということであり、サウジとイランの関係回復は、サウジの安全保障の究極的な保証人は米国であるという事実を変えることはない。さらに、サウジがイスラエルと和平条約を結ぶ可能性も排除されない。

 しかし、イスラエルの立場は、国内の政治危機だけでなく、対イラン政策を見直さないことで悪化し続けている。他の中東諸国が現在の戦略的状況を受け入れているのにイスラエルは、イランに対する「影の戦争」(イランの核科学者の暗殺や核施設へのテロ)を続けている。中東地域では合従連衡の組み直しが行われているが、イスラエルの指導者達はビジョンと政策を変更する勇気に欠けている。

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 上記のベン・アミ元外相の主張は、彼が現在のネタニヤフ首相率いる右派リクード政権と対立する左派労働党政権での外相だったという政治的立場、また、イスラエル人特有のバイアスがあるので割り引かないといけないが、現在、中東で起きている合従連衡の組み直しに対する、なかなか興味深い論考である。


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