2024年12月22日(日)

21世紀の安全保障論

2023年4月28日

 官邸で待ち構えていた記者団に対し、岸田文雄首相は4月25日午前、「(首都の)ハルツーム市内で退避を希望していたすべての在留邦人の退避が完了した」と説明するとともに、邦人退避をやり遂げた大使館関係者に対し、「勇気と責任感あふれる行為は賞賛に値する」と述べ、敬意と感謝の意を表した。

アフリカ・スーダンでの内紛を受け、日本政府はすぐに自衛隊の派遣を決めた(時事)

 アフリカ北東部のスーダンで、軍と準軍事組織(即応支援部隊=RSF)との間で軍事衝突が発生してから10日、衝突が内戦へと激化する中、日本政府は海賊対処活動の拠点を置くアフリカ東部のジブチに自衛隊機を派遣、米英仏独や韓国、サウジアラビア、国連機関などの協力を得て、25日までにスーダンに在留する邦人58人の退避に成功した。無事で何よりと思うと同時に、今回の退避作戦を検証しながら、在外邦人保護の課題を指摘したい。

政府の頭にあったアフガンの教訓

 今回、政府が対応を急いだのは、初動の遅れを厳しく批判された2021年8月のアフガニスタンからの邦人退避と同じ轍を踏んではならないとの危機感があったからだ。

 当時、自衛隊機を派遣するには、自衛隊法84条に「輸送を安全に実施できる」という要件があった。イスラム主義勢力のタリバンが政権を奪取し、アフガン全土の治安が悪化している状況下で、政府は即座に意思決定ができず、自衛隊機を派遣したのは、欧米各国や韓国などに比べて約1週間も遅れてしまった。このため、退避を希望していた邦人の大半が自力で国外に脱出せざるを得なかった。

 「輸送の安全」という要件が派遣の遅れにつながった反省から、22年4月、政府は同法を改正し、条文から「安全」という言葉を削除し、「予想される危険を避けるための方策を講じることができる」場合に改めた。

 そして今回。4月15日の軍事衝突から4日後の19日、自衛隊法に基づき外務大臣が防衛大臣に邦人輸送に必要な準備を要請、防衛省は20日、派遣準備に着手、翌21日には航空自衛隊のC2とC130輸送機など3機が、作戦拠点となるジブチに向けて飛び立った。

 ここまではアフガンの教訓が生かされたと言っていい。だが、20日の記者会見で自衛隊の吉田圭秀統合幕僚長が「現地の治安状況は極めて厳しく流動的だ。どういうミッションになるかわからない。陸上輸送までも検討の幅に入れている」と明かしたように、内戦で事実上の破綻国家となったスーダンの首都ハルツームの空港周辺は戦闘地域と化しており、離着陸に滑走路、もしくは一定の広さの空地が必要な空自輸送機がジブチからスーダンに入ることはできるのだろうか。即座に浮かんだ一抹の不安だった。


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