敵基地攻撃の選択肢を検討した防衛研究所の報告書がある。
≪時速20㌔メートル程度で移動する弾道ミサイルの発射装置の攻撃には、①発射後の目標変更に制約のあるトマホークなど巡航ミサイルでは困難 ②パイロットが自ら攻撃目標を確認できる戦闘機による誘導型ミサイルが有効――≫
実は、これは昨年末に「国家安全保障戦略」など安保3文書を改定するにあたって作成した報告書ではない。今から20年近く前の2004年12月、北朝鮮が開発する核兵器と弾道ミサイルが、日本にとって現実の脅威となったことで、当時の石破茂・防衛庁長官が極秘に検討させたものだ。
報告書について筆者は、読売新聞の連載企画「核の脅威」(2007年3月25日)の中で詳述しているが、攻撃力を保有する前に、補うべき課題は山ほどあるというのが記事の狙いでもあった。
変わらぬ抑止力強化の課題
記事で指摘したのは、自衛隊が単独で敵基地攻撃するには限界があるという前提で、①有事を想定した米軍との綿密な連携、②陸海空自衛隊の一元的な指揮――などといった課題を取り上げたのだが、今でも何ら変わっていないことに驚かされる。
岸田文雄首相は2月27日、日本が米国製の巡航ミサイル・トマホーク400発の購入を計画していると明かし、浜田靖一防衛相も、取得について米側と調整中と語っている。さらに3月4日付けの日本経済新聞は、中国や北朝鮮、ロシアが開発を進めている極超音速滑空兵器に対抗できる国産ミサイルを27年度までに導入し、30年度には、より高速の弾道ミサイルを迎撃できる能力向上型を投入するという防衛省の計画を報じている。
反撃力を持つと決めた以上、保有の規模と道筋を明らかにすることは政府の重要な役割だ。その主力となるトマホークは、30年以上前の湾岸戦争で世界中の耳目を集め、20年前のイラク戦争でも威力を発揮したが、防衛研究所が指摘しているように、動く目標への攻撃は未知数であり、飛翔速度は民航機並みと遅く、低空を飛んだとしても、ハイテク化が進んだ現代戦では、途中で撃ち落とされてしまう恐れもある。
岸田首相は、購入を計画しているのは21年から米海軍への導入が始まった最新型とした上で、「迎撃を回避する飛翔も可能だ」と抗弁する。トマホークについて自衛隊の元幹部は「GPSを使って目標まで誘導するシステムで、イージス艦であれば誘導に必要な機器を改修せずに搭載できる」とメリットは認めるものの、「早期の配備を考えればトマホーク以外の選択肢はない。だが、飛翔速度の遅さは致命的な弱点だ」と話す。