2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2023年3月10日

 不安を抱えたトマホークにしても、配備は早くて26年度だ。裏返してみれば、それまでの間に、反撃力とは別に抑止力強化の手立てを講じる必要があるということだ。

 では何をするのか――。それは絶対に生起させてはならない台湾有事と尖閣有事を回避するために、予見できる限りの場面を想定した訓練を通じて、自衛隊と米軍が共同して戦うための連携を強化するしかない。かつて真っ先に指摘した課題と向き合うことだ。

米軍の中国気球撃墜の教訓を学べ

 人は自分が想像できないことに対して、適切な行動や対応は絶対に取れない――。これは「災害想像力」と呼ばれ、危機管理の鉄則でもある。そして危機に直面した際の想像力(イマジネーション)の重要性は、なにも災害に限ったことではない。

 それを証明したのが、米軍による中国気球の撃墜だ。日本は過去、宮城県や青森県などの上空で、同じような中国の偵察用気球を確認していながら、何の対応も執らなかった。

 それは領空侵犯されれば厳しく対応するという発想、つまり何をするべきかという想像力に欠けていたからだ。考えつかなかったと言ってもいい。

 気球であっても、国際法を無視した主権侵害行為があれば、断固たる措置を執るという米国の意思と行動力は見事であり、画期的な前例となった。国際法学者はもとより国際世論も気球撃墜を支持しており、日本は今後、同じような状況に直面すれば、毅然とした対応を執ることができるはずだ。換言すれば、ありとあらゆる危機的な状況を想定し、執るべき手立てを決めておかなければ、実際には何もできないという証左でもある。

 これを台湾有事と尖閣有事に置き換えて考えてみたい。ロシアがウクライナを侵略する以前から、米軍幹部らは相次いで台湾有事の可能性を指摘していた。昨年秋の中国共産党大会で、台湾統一について習近平国家主席は「決して武力行使の放棄を約束しない」と発言、そう遠くない将来、中国が台湾を侵攻する可能性が現実味を帯びはじめている。それが日本の平和にとって最大の懸案である以上、その時何が起きるのか、予見できる限りの状況を想定し、執るべき対応を決めておかなければならない。

 そのためには、中国が得意とするサイバー攻撃などの情報戦への対処はもちろんだが、台湾が占有する離島の奪取や台湾本島に対する着上陸侵攻に至るまでさまざまな危機を想定し、日米、そして日米豪がどう対応するのか、リアルな訓練を積み重ねてもらいたい。併せて「尖閣諸島は台湾の一部」と主張する中国から、自衛隊と海上保安庁、そして米軍が共同して沖縄・尖閣諸島を守り切る場面も訓練しなければならない。

日米共同作戦計画の策定を急げ

 なぜリアルな日米共同訓練の必要性を指摘するのかと言えば、昨年5月に刊行された『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(新潮新書)を読めば、台湾有事を想定した自衛隊と米軍の共同計画が存在しないことが明らかだからだ。

 この書籍の著者である陸海空の元将官たちへ、筆者は何度も取材し、信頼を置く面々でもある。共同作戦計画について、「米国が既に保有する台湾防衛の作戦計画を開示してもらい、日本が共同計画を策定する」「自衛隊を組み込んだ作戦計画を米側が策定し、日本に開示する」「日米がそれぞれ計画を作成し、交換して調整する」といった意見を率直に議論し合っている。


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