2024年12月13日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月20日

 3月末、「アステラス製薬」の日本人社員が、中国当局によって拘束されたことが判明し、在留邦人社会のみならず日本政府にも衝撃をもたらした。当該社員は同社の中国関連事業を長年担い、日系企業団体の幹部も務めてきた人物とされるが、中国の「反スパイ法」(2014年施行)に違反したとの容疑をかけられ、現在も拘束が続いている。

(sakhorn38/cbarnesphotography/gettyimages)

 この事件の背景には、明らかに日本政府への牽制という意図がある。緊張の一途をたどる米中関係のなかで、岸田文雄政権は米国との連携を強め、海洋進出への対処、台湾問題、半導体技術に代表される輸出規制強化などをめぐって、中国に対して比較的強い態度で臨んできた。

 一方で、中国は米国主導の「対中包囲網」拡大に神経を尖らせ、そこにくさびを打ち込むことを試みている。例えば今年に入ってからは、この数年悪化していた豪州との関係改善を図るなどの動きを見せている。

 しかし、岸田政権は国内世論や米国への配慮もあり、従来の政権とは異なって、中国側からの接近を避ける動きを続けてきた。このため、日本の最大のアキレス腱が過大・依存的な経済関係と、無防備な在留邦人社会にあることを熟知している中国が、その切り札を利用したのが今回の事件である。すなわち中国は、日本の「対米追随」加速を牽制すると同時に、外交対話のきっかけをこじ開けるため、今回の行為に出たと考えられる。

成果なき林外相の訪中

 はたせるかな、日本側は事件発覚直後に林芳正外相の訪中を急遽決定し、4月2日には中国外交の司令塔である王毅政治局員や秦剛外相と会談し、また李強首相を「表敬訪問」した。

 中国は、林外相の訪問を「日本が対中関係改善を望んでいるサイン」と対内的に宣伝し、また日本側には「虎(米国)の手先にならないという前提条件が、建設的・安定的な両国関係を構築するには必要」と釘を刺した。さらに中国側の発表では、林外相から「日中協力の促進に尽力し、脱中国化は採らない」との言質を引き出したとされ、得るべき成果をもぎ取った。

 一方で日本側と言えば、林外相は秦外相に対して会談冒頭で、邦人拘束に強く抗議した上で早期解放を要求したとされるが、中国側は「法に基づき処理する」と応じたのみで、何らの成果を得られないままとなった。当然ながら、中国は日本の要求など最初から受け入れるつもりもなく、また邦人を拘束した以上は自らの建前と面子を通す必要があり、今日まで当該社員解放の兆しは一向に見らない。


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