2024年5月6日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月20日

 もっとも実際、現在の日中の力関係では、日本政府にできることも無いに等しい。建前として「日本人の生命・財産の保護」がある以上、邦人の早期解放要求という空文言は唱えるが、これはいわゆる「遺憾砲」と揶揄されるものと同様に何の効果もない。これが日本国・日本人の置かれた今日の現実であり、もはや「誰も助けてはくれない」のである。

有事になればいつでも中国の手中に

 約16兆円強(2021年末時点)にも上る対中投資残高、10万人以上もの在留邦人は、もはや日本の安全保障にとって直接的なリスクである。仮に台湾有事や米中関係の悪化といった事態、さらには日中間の直接的な利害衝突が発生すれば、中国は随意にこれらのヒト・モノ・カネを「敵性」として拘束・接収できる。

 一方で、日本側は在留邦人や日系資産を盾に取られれば、政府は「国民の生命・財産の保護」を建前とする上、財界や世論の圧力に抗することも難しく、大局的判断の足かせとなる。中国はこの日本の弱い立場を見透かし、揺さぶりをかけるであろう。

 言い換えれば今日、緊張感なき対中投資・交流を継続・拡大することは、無自覚に日本の安全保障を損ねているといっても過言でない。このように言われることは、一部の企業や人々には心外であろう。しかし、もはや変化した国際環境と日中関係のなかでは、これが新たな現実である。そして将来の危機に直面したとしても、もはや日本政府は彼らを救える術を持っていないのである。

 「自らの身は自ら考えて守る」しかない。私たちは今一度、中国という幻想や甘言に惑わされることなく、その政治・社会の異質性という重大なカントリー・リスク、そして根本的な地政学的変化という現実を、緊張感をもって再認識しなければならない。そして、過大・依存的な日中経済という「惰性的な常識」の陥穽から脱し、対中進出・交流について根本的再考・英断をすべき時期に直面しているのである。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

 
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