WEDGE SPECIAL OPINION

2022年2月21日

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久末亮一 (ひさまつ・りょういち)

日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所 副主任研究員

学術博士(東京大学)。香港大学アジア研究センター客員研究員、東京大学大学院総合文化研究科助教、政策研究大学院大学安全保障・国際問題プログラム研究助手などを経て、2011年から現職。
 

 北京五輪が閉幕し、「ウクライナ侵攻」だけでなく、アジアにとってのもう一つの「危機」である台湾がいつ起きてもおかしくない状況となりつつある。「Wedge」2022年3月号に掲載され、好評を博したWEDGE SPECIAL OPINION「迫る台湾有事に無防備な日本 それでも目を背けるのか」では、現実味を帯びてきた台湾有事に備える術を検証しております。記事内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。
 
 「両岸(中台)関係の隔たりは軍事衝突では解決できない」。新たな年を迎えた1月1日、台湾の蔡英文総統は新年の談話でこう述べた。
 この地域が戦火に見舞われることは誰も望んでおらず、絶対に避けなければならない。
 コロナ禍での北京五輪開催で自信を深め、成果を強調して秋の中国共産党大会に臨む。異例の3期目を勝ち取ったその先に、習近平国家主席が見据えるものは何か。強硬姿勢を隠さなくなった中国の言動や「中国の夢」として掲げる「中華民族の偉大なる復興」という〝野望〟を直視すれば、米国や台湾が具体的な時期を示して〝有時〟の分析に走るのも無理はない。
 だが、20XX年を的中させることが勝利ではない。最悪の事態を招かぬこと、そして「万が一」に備えておくことが重要だ。政治は何を覚悟し、決断せねばならないのか、われわれ国民や日本企業が持たなければならない視点とは何か——。
 まずは驚くほどに無防備な日本の現実から目を背けることなく、眼前に迫る「台湾有事」への備えを、今すぐに始めなければならない。
中国市場の甘露をただ味わっていられた時代は終わり、もはや中国が「敵地」となりうる現実を直視せねばならない (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

 台湾情勢が緊迫している。権威主義的統治を強める中国の習近平国家主席にとって、自身が目指す最大の目標であり、超えるべき存在の毛沢東を凌ぐには、その毛でも成し遂げることのできなかった「両岸統一」を、自らの治世で完成させる必要がある。特に、見せかけの国威や自信の裏で進む、政治的・経済的な厳しい国内状況を乗り切り、自らの統治体制を盤石とするには、「両岸統一」による「毛沢東超え」が必須となる。それゆえに、今後の台湾情勢の緊迫化は必然である。そして、もはやそれは「遠い先の話」ではない。

 日本にとって台湾有事は文字通りの「対岸の火事」では済まされず、さまざまな事態の発生が想定される。例えば、台湾とは目と鼻の先にある南西諸島への戦闘区域の拡大、中国の海上・空域封鎖による海上交通路(シーレーン)やサプライチェーンの混乱、現地在留邦人の救出や台湾からの難民発生などである。なかでも最大の問題は、台湾有事に対する米国の軍事的対応が実行された場合、その同盟国たる日本の動きが、中国の非対称戦術によって牽制されることである。

 これにより中国は、日本に揺さぶりをかけると同時に、日米同盟の信頼性を毀損させるであろう。言うまでもなく、日本は米軍の基地機能を広範囲にわたって提供しており、集団的自衛権の行使となれば自衛隊も連動して行動する。中国にとってこれを足止めすることは、台湾侵攻の成功に不可欠な要素となる。

 中国が熟知する日本への最も有効な非対称戦術、言い換えれば日本の中国に対する最大の弱点とは、危険なまでに一体化した経済関係の利用である。日本の対中投資残高は香港を含め2020年には約19兆円、貿易総額は約3402億㌦(約36兆円)にも上り、「切っても切れない」落とし穴になっている。また、こうした関係の反映もあり、中国・香港の在留邦人は約11万人に上る。

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