2024年12月14日(土)

21世紀の安全保障論

2023年4月18日

 海上自衛隊の元1等海佐(懲戒免職)が、安全保障に関わる機密情報「特定秘密」を漏洩したとされる事件は、戦後最悪という現下の厳しい安全保障環境の中で、国防に関する情報の扱い方を見直し、官民問わず情報への感度を高める緊要性を示唆している。

海上自衛隊の元1等海佐による特定秘密漏洩について、酒井良海上幕僚長が会見したが、その後、不起訴に(時事)

 この事件は、元1佐が海自の情報業務群司令だった2020年3月、神奈川・横須賀市内の庁舎内で、かつての上司で自衛艦隊司令官も務めた元海将のOBに対し、米国政府などから提供された電波情報などの特定秘密を漏らしたとされるもので、防衛省は昨年末、漏洩の経緯を公表し、元1佐を懲戒免職とした。

 しかしその後、自衛隊の捜査機関である警務隊から容疑内容について書類送致された横浜地検は3月14日、詳細な理由を明らかにしないまま、特定秘密保護法違反などの容疑について、嫌疑不十分で不起訴処分とした。この結果、事件の詳細等が裁判を通して明らかにされることはなくなった。

 筆者は「それを残念だ」と思っているわけではない。むしろこの処分を機に、情報の扱い方の難しさを理解し、情報の重要性を認識する好機とする必要があると思っている。

どうして不起訴に

 不起訴処分について防衛省は「検察の判断であり、答える立場にない」としながらも、「自らの調査に基づき特定秘密などの漏洩があったことを確認している」とコメントしている。新聞報道等によれば、漏洩したとされるのは、東シナ海など日本周辺海域における中国海軍艦艇の行動に関する内容で、米軍の軍事衛星が捉えた情報も含まれていたという。

 元1佐は部外者の立ち入りが禁止された庁舎内の保全区域で、OBから「講演する機会がよくある。正確な情報を把握したい」などと求められ、米軍から提供された情報などに基づいて海自がまとめた資料を口頭で説明したという。仮にこのOBの講演を中国などの軍関係者が聞き、OBに接触を図るようなことがあれば、深刻な情報漏洩事態に発展していた可能性もあるだろう。

 ここまで具体的になっていながら、なぜ不起訴となったのか――。筆者の問いにある防衛省関係者は「特定秘密に指定された画像情報を直接見せたのではなく、内容をそしゃくして口頭で説明したことから、話した内容にどの程度特定秘密が含まれていたのかなど立証が難しいと判断したのではないか」と話す。

 秘密はこそこそ伝えるものであり、画像をそのまま提供するといったあからさまな漏洩でなければ立証が困難というのも、法の趣旨からいっておかしな話ではないか――との問いに対しては、「起訴されて公判が開かれれば、特定秘密の内容が露見してしまう。しかも米軍の情報が含まれるとなれば慎重にならざるを得なかったのでは……」という見立ても示す。真相は藪の中だが、実は似たようなケースは過去にもあった。


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