2024年5月8日(水)

21世紀の安全保障論

2023年4月18日

裁判非公開の基準作りも必要

 もうひとつは、前述の防衛省関係者が指摘した「公判が開かれれば、特定秘密の内容が露見してしまう」という懸念をどのように払しょくするかという課題ではないだろうか。

 戦前の日本では、治安維持法違反など政治的色彩の濃い事件では、公開が度々停止され、裁判は非公開の中で不当な判決が下されてきた。その反省から、現憲法は裁判、とりわけ刑事裁判については公開を原則としている。

 ただし憲法82条は公開の例外として「公の秩序と善良な風俗を害する恐れがある場合」を規定している。また、不正競争防止法で営業秘密を保護するケースでは、審理を非公開にすることが認められている。裁判によって守らなければならない営業秘密が、逆に拡散してしまうことを防ぐためだ。

 もちろん安易な非公開は慎まなければならない。だが、特定秘密保護法違反など国家にとって機微な情報をめぐる事案については、審理を非公開とする手続きなど明確な基準作りが必要ではないだろうか。そして、昨年春に成立した経済安全保障推進法の視点からも「非公開」について考えてみてもいいのではないだろうか。

 現在、同法に基づいて機密情報の扱いを有資格者に限定する「セキュリティ・クリアランス(適格性審査)」制度が検討されている。課題となっているのは、資格保有者が情報を漏洩した場合の罰則で、特定秘密保護法の罰則に合わせて「懲役10年以下」とする案などが浮上している。

 特定秘密保護法と経済安全保障推進法――。どちらも国家にとって重要な情報を扱う法律であり、情報が漏洩した場合には厳罰に処すという姿勢を示す必要があるだろう。そのためには捜査段階や公判前に、防衛省や経済産業省などの行政機関が、検察などの捜査機関に対し、どこまで秘密を開示し、提供するのかといった問題も考えなければならない。

統合司令部の場所は……

 本稿を締めくくるにあたって、最近気になったニュースを提示してみたい。それは安保3文書に明記され、新設が決まった「自衛隊統合司令部」の設置場所をめぐる報道だ。

 現時点では防衛省のある東京・市ヶ谷地区に設置する方向のようだが、統合司令部は有事など国家危機における最重要拠点であり、同時に敵の攻撃対象でもある。設置するには、司令部から出される通信や電波を探知されないような防御壁(シールド=Shield)を設けることは必須なはずだ。米軍など日本を支援する有志国軍の情報拠点としても使われるだろう。

 つまり〝情報〟という観点から、統合司令部の場所は選定されなければならない。しかも攻撃を受けて破壊された場合に備えて、予備の司令部の設置も考えておかなければならない。今回の情報をめぐる事件をきっかけに、官民問わず、私たちはさまざまなレベルで情報に対する感度を高めていく必要がありそうだ。

 
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